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element story ―天翔るキセキ―
自分自身、と

「わたしは女神イリスの人形として、体内エレメントは失っても暫くしたら回復するようになってるの。…ううん。身体の中でエレメントを生成出来るって言う方が適切かもしれない。

――…でも、ロックはそうじゃない。それなら、やっぱりロックが生まれたのには女神イリスは関与してないんだと思う」

女神イリスがバラまき、世界中に落としていったエレメントロック。その内のひとつが、女神とは違う意思を持ち。何らかの理由から、人間としての形を持ったのではないか。

エリィはそう仮定し、「ロックはまだ、『その子』の声が聞こえない?」と問いかけた。

――…『その子の声が聞こえないか』。ロックは前にも、同じ事を聞かれている。まだ、エリィがしっかりとした自我を芽生えさせていなかった頃。
お互いの持つ虹色のエレメントロックについて話した、あの時。


「……」

ロックは、肌身離さず持っていた自分のエレメントロックを手に取る。部屋の明かりに照らされ、それは眩く煌めいた。

……今まで、これは自分の実の両親が残したものだと思っていた。けれど、真実は違ったのだ。

「……」

これは、このエレメントロックは、親であり兄弟であり自分自身でもある。今まで人間として生きてきた自分の、分身。

「……」

ロックは自然と目を閉じていた。そして、エレメントロックを両手で包み込むように握り、念じる。

(……)

自分自身に問いかけるように、心の中で声を上げる。
あの時、エリィに『呼びかければ応えてくれる』と言われても、このエレメントロックは何の反応も示さなかった。それはきっと、自分が自分自身の真実に気が付いていなかったからではないだろうか。


……そうだ。『自分は何かを知っている』。そんな予感が、さっきからずっとしていたのではないのか。その真実が、今目の前にあるのではないのか。

(……お願いだから)

手の中にある、エレメントロック。それが本当に、自分自身ならば。自分の呼びかけに、応えて欲しい。



――…この世界は……――


(……!)


――…その時。声が聞こえた。

心の奥底から響いてくるようなその声は、年齢も性別もなにも感じられない。また雲を掴むよりもあやふやな、ぼんやりとした声。


――…この世界は…すべての生のものだから……――

それがだんだんと、色づいていき。

――…エレメントも…人間も……世界を形作るものだから…――

毎日よく聞いているような声、


――だから…女神に壊させるわけには…いかない…――!


……自分の声に…なっていた。




「ロック…!」

ゆっくりと目を開いたロックに、エリィが声を掛ける。シング達もみな、心配そうな目でロックを見守っていた。

「…大丈夫だよ。…ずっと忘れてた事、思い出しただけだから」

「!」

「思い出した…って、それって、もしかして…」

「うん」

誰もがみな、驚いていた。自分自身との対話を間接的に促したエリィでさえも、ロックが『思い出した事』は何なのか予想がつかない。

皆が、その答えを息を飲んで待つ。ロックはひとり一人と目をしっかりと合わせてから、宣誓するように言い放った。



「僕は――……女神イリスを止める為に、生まれて来たんだ」


その声は、今までにないほど力強く。

そこにいた全員の心に、残響を残した。




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