element story ―天翔るキセキ―
今出来る事
――響界・会議室内。
殺風景な会議室内には、重苦しい空気が漂っている。
前日と同じように席を並べるヘリオドールと各ギルドマスター達。…いや、そこにはひとりだけ、欠けていた。
「…俺の判断が間違っていた」
重い口を開くヘリオドール。その声は後悔に満ちている。
「いくら焦っていたとしても、あの場にはランジェルを行かせるべきだったんだ」
名を出されたランジェルは、複雑な表情ながら頷く。
意識を取り戻した一部の断罪者やナイクの報告によって、侵入者が剣を扱う青年だという事が明らかになった。
魔術師には欠点がある。それは侵入者に指摘されていた通り、『紡ぎ歌を唄えなければ、魔術は使えない』という点。
元魔術師と推測される侵入者はそれを突いて、ヴァルトル達に手出しされないよう翻弄してきた。
東西南北に位置する、四つのギルド。その頂点でメンバーを率いる四人のギルドマスター達。
その内、魔術を使わずとも戦えるのは『宝剣の西』ランジェルのみなのだ。
彼は訳あって宝剣を所持していない。が、それでも剣の腕は確かだった。
今回の事件、あの場に彼がいれば、彼が侵入者と攻防を繰り広げ、他の者が後衛に立ち魔術を行使するといった陣形が組めた筈。
それが叶わず、結果ヴァルトルが負傷し現在も意識が戻らないのは、ひとえに自分の判断ミスが原因だとヘリオドールは言った。
「リオ君…」
レスマーナは何も言えず、俯いてしまう。
ヴァルトルの事も、未だ意識を取り戻さない断罪者の事も心配だった。
響界の被害は甚大だ。今現在響界で動いているのは、事件当日響界にはいなかった断罪者と、響界直下の魔道具技術者のみである。
「…仕方無いわ。もう、どうしようもない。昨日は過去になってしまったのだから。…今の私達に出来る事を考えましょう」
沈黙の中に、ナイクは言霊を投げかける。
…彼女は目の前で仲間がやられて、侵入者には逃げられた。
彼女はあの場にいたのだ。一番、不甲斐ない自分に腹を立てていてもおかしくない立場だった。
が、彼女は悲痛に顔を歪めつつも、皆に今出来る事を考えるべきだと告げた。
「…なっちゃん…うん、そうだね」
…彼女がそう言っているのに、自分達がいつまでも落ち込んでばかりはいられない。
そう思ったレスマーナは、努めて笑顔で頷いた。
「…悪いな」
こちらの方が励まされたようだと、ヘリオドールは苦笑する。
…自分達が背負っているのは、自分の命だけではない。
この世界全体の命なのだ。
いつまでも、自分の過失を責めて落ち込んでいる訳にはいかない。
今出来る事を、考えるべきだ。
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