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絵描きな僕とオタクな先輩。
どうして



「――それで……先輩」

「うん、なんだね後輩君」

――僕達は今、人混みが行き交う街並みの中、ビルとビルの間に隠れてるように立っている。

「……こんな事やって、問題は解決するんですか……?」

「多分ね」

多分かよ。思わず心の中で突っ込んだ。
先輩はどれだけ自信があるのか、ふふんと機嫌よく笑って。

「まあ、少なくとも今よりは好転すると思うよ」

本当だろうか……。
僕は遠くにそびえ立つ時計台を眺めながら、小さく溜め息を吐いた。



――逆人君と初めて話したあの日から、数日が経った。
そして今日、日曜日に決行された先輩の『計画』に、僕は疑念を抱かざるを得ない。

その計画とは、――『逆人君と彼女のデートを、直子さんに見せる』というもの。
見せると言っても、実際には今の僕達の状況を見れば分かる通り、『覗き』だ。しかも、逆人君は勿論、彼女さんも覗かれている事を知らない。


『直子を早く安心させる為にだ。逆人君、彼女と週末デートをしたまえ!』

あの日、先輩は逆人君にそう言った。逆人君達が早く正式な恋人同士になれば、きっと直子さんも安心するだろうと言い含めて。

そうして逆人君を納得させてから、先輩は直子さんに連絡を取り。今日、逆人君達がデートするという事実を伝えてこの場をセッティングしたという訳だった。
デートの待ち合わせ時間も、先輩が誘導して直子さんのバイトが終わった後に合わせてある。今は待ち合わせ場所の様子を見ながら、直子さんがやってくるのを待っているような状態だ。


「それにしても。君にもようやく学校での友達が出来たな。良かった良かった」

学校での友達とは、逆人君の事だろう。彼はあの日、『自分たち姉弟の事は名前で呼んで欲しい。名字は好きじゃない』と言ってきた。先輩曰く、それは逆人君たちと友達になれた証だろうとの事だ。

その事に関しては僕も喜ばしい事だとは思うけれど、先輩の言い方には何だかムッとして。僕は思わず「……馬鹿にしてるんですか?」と言い返した。

「事実じゃないのか?」

「……」

あっけらかんと返されて、僕は思わず口を噤んだ。……勿論、図星だったから。


「放課後の君の時間を縛っているのは私だからな。……これでも、少しは心配しているのだよ」

先輩の声のトーンが、少しだけ落ちる。……僕はさっきまでとは別の意味で何も返せなくなってしまった。
いきなりそんな本音を言われるとは思わず、とっさに言葉が出て来ない。


「時たま玄武に様子を見に行って貰っていたのだが、君が人と話している姿をとんと見ないと伝えられてね。これはどうするべきかと密かに考えていたのだよ」

「……そうだったん、ですか」

かろうじて出た声は、何の気も利かない言葉だった。こういう時、自分の性格が本当に嫌になる……。


「今回の件は偶然だったが、いつかの機会に逆人君を紹介しようと思っていたんだ。……結局、あまり良いタイミングではなかったが。無事に友達になれたようで、安心したんだよ」

言いながら先輩はふっと空を見上げる。その表情は凄く大人びていた。同時に、僕の目からは憂いも感じられる。


――……今まで、先輩は何も知らないと思っていた。何も知らない上で見透かしたような態度を取るのは、逆人君が言うように『不思議な人』だからだと思っていた。

……けれど、実際は違ったんだ。

先輩は『僕の事を』心配していたんだと、僕個人を見ていたんだと、その言葉でようやく気付いた。


「……君の過去に何があったのかは知らないし、君が私に言わない限りは聞くつもりはないよ。

……だが、『現在の』君を心配する権利は、私にだってある筈だからな」

今まで何だかんだと、先輩が言う事は僕個人に向けたものじゃないと思い込んでいたけれど……そうじゃなかったんだ。


「……先輩は……」

「ん?」

「……先輩は、どうしてそんなに僕を心配してくれるんですか?」

自然と、僕はそう問いかけていた。先輩の答えが、予想出来ていたはずなのに。

「なんだ今更。そんなの決まっているだろう」

……先輩はいつものように、芝居がかった口調で。僕をまっすぐに見据えて、言う。


「君は私の嫁だからな。嫁の心配をするのは当然の事だろう?」

――その言葉に、僕は酷く安堵していた。……もしかしたら、無意識に予想通りの答えを求めていたのかもしれない。


「……そう……ですか」

先輩の、自信満々な笑み。それを見ていたら、僕は何だか急に気持ちが落ち着かなくなってきた。
決して嫌な感覚ではなくて、寧ろ『嬉しい』とかそういう感情に似たものなんだけれど。……うまく言葉に出来ない。


「んん、なんだ。照れているのか? ……もしかして、今のでフラグがっ」

「立ってません!」

顔をパッと明るくした先輩に思わず声を上げた。「むう」とむくれる先輩を尻目に、僕は思う。


(――どうして、先輩は僕の事をそこまで考えてくれるんだろう)

先輩と出会ったのは二ヶ月前の四月。今年度が始まったばかりの頃で、きっかけは完全に偶然の出来事だ。
その時から先輩は僕に嫁だの何だのと言って来ていたけれど、その原因なんて何も思い当たらない。

――……じゃあ。先輩はいつ、どんな経緯で僕に興味を持ったのだろうか。


「――……どうして」

「ん?」

……僕は先輩の事を、全然知らなかったんだ。

だから、聞きたかった。今までずっと、僕が知られる側だったから。

だから、言った。


「どうして、先輩は僕の事を――」



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