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絵描きな僕とオタクな先輩。
本題


――本題が来た。

僕は先輩を一瞥した後、活海君を見つめる。……活海さんは、話した限り人知れず悩んでいる感じだったけれど。活海君は、お姉さんの感情に気が付いているのだろうか?


「……はい。直子にはちゃんと、深緒の事は話しています」

活海君は、僅かな間を置いてから返答を寄越してくる。黙り込んだ一瞬だけ、何かを考えていたような……そんな風に見えた。

「何か引っかかりがあるな?」

先輩は目を光らせる。活海君と付き合いのなかった僕でも気が付いたんだから当たり前だろう。

「…………」

活海君は先輩の真剣な眼差しに、目を逸らす。そして、さっきまでとは随分なギャップのある、今までで一番小さな声で呟いた。


「……最近、直子は元気がないので」

どうやら活海君も、何となくお姉さんの様子を察していたらしい。曰く、お姉さんがそうなった時期と、活海君が仮彼女の事を話した時期と重なっているのが気がかりだとか。

「ふむ……なるほどな」

先輩は顎に手を置いて、考える仕草を取る。
僕達は活海さんの気持ちを知っているから、活海君に今ここで真実を伝える事だって出来るんだけれど。先輩は事前に、『それはしない』と断言していた。『それでは意味がない』とも。
結局、先輩がどんな対策を講じるのか。僕は何も知らされていない。活海君の気持ちを聞いた今、どうするつもりなのだろう。


「――直子は、もしかしたら不安なのかもしれないな。君と彼女が、ちゃんと上手くやれるのかを」

暫くの間を置いて、先輩は活海君に言った。その答えは、実際の真実とはズレているものだ。僕は黙って、場の成り行きを見守る。


「君と彼女はお試し期間中だからな。直子としては、可愛い弟の恋愛事情は気になるものだろう」

「そうか……」

先輩の言葉に、活海君は納得したように呟く。……いいのかな、勘違いさせちゃって。


「……直子には、ずっと気苦労をかけてきました。だからもう安心していいと、俺は大丈夫だと言って、深緒の事を話したのですが……――逆効果だったんでしょうか」

活海君のこの発言は、前に活海さんから聞いた話と重なる。

……お互いがお互いの事を想っているのに、うまくいかない。血の繋がった姉弟でも、そうなんだ……。

活海君の言葉を聞いて、僕は改めてそれを理解した。


「……逆人君。君の想いはよく分かった」

先輩は活海君をじっと見つめる。厳しい印象では無いけれど、かと言って優しい雰囲気でも無かった。

「直子が元気を取り戻してくれるよう、私達は協力を惜しまないよ。なあ、後輩君?」

「えっ? ……あ、は、はい」

いきなり話を振られて、僕は妙な声を上げてしまう。けれど、その言い分に異存はないので、気を取り直してしっかりと頷いた。

「土浦も? ……いいのか?」

ほぼ無関係な僕の答えに、活海君は驚いたように声を上げる。僕が「うん」と答えると、僅かに表情を和らげて一言。

「……ありがとう。お前は優しいな」

「い、いや。そんな感謝されるような事じゃないから……!」

先輩に言われるままに協力しただけだし、活海君に会うまで嫌だ嫌だとか考えてたし。そんな奴に優しいだなんてあまりに不似合いな言葉だと思った。
でも、そう言って慌てて否定する僕の姿を照れ隠しとでも判断したのだろうか。活海君はもう一度「ありがとう」と告げてくる。

活海君の表情も言葉も物凄くストレートだからか、なんだか恥ずかしい気分になってきた……。


そんなむず痒い羞恥心に襲われる僕へ、今度は別方向から言葉が飛んでくる。


「『べっ、別に君の為じゃないんだから! 先輩に言われたから協力するだけなんだよ、勘違いしないでよね!』か……まさしくツンデレだな」

「……先輩……」

気持ちが一気に冷める。ていうか、その低音ボイスはまさか僕の声真似なんだろうか。だったら余計にムカつくんだけど……。


「……今のが、直子や明日葉さんの言う『てんぷれつんでれ』なのか。初めて生で見た……」

「活海君……」

関心したような活海君の眼差しに、僕はがっくりと肩を落とす。今日一日で、一番の疲れに襲われた――……。


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あきゅろす。
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