[携帯モード] [URL送信]

絵描きな僕とオタクな先輩。
初めての光景

先輩が学校で目立たないようにしている理由は勿論、オタク趣味ではないもうひとつの秘密がバレない為にだ。
生徒という団体の中で目立てば目立つだけ教師に目をつけられるし、また生徒同士でも妙に絡まれるのは困るから。そう先輩は言っていた。
オタク趣味を隠すのもその為…うん。
どう考えても、先輩が素を出してしまったら、少なくとも生徒間では目立つだろう。その判断は正解だと思う…。

僕は桂木先生と別れ、再び歩き出す。
二年生の教室が並ぶ二階から離れ、階段を降りていく。
いつも先輩と会っている教室は三階にあるけれど、今日はこのまま最寄り駅で合流する事になっていた。

(…ん?)
一階に降りた所で、僕は妙な光景を目にする。

珍しい…というか、初めて見た。
先輩が、誰かと話している。しかも、笑顔で、男子生徒と。
…あれ、男子生徒の後ろ姿は見た事あるような気がする。男子生徒の近くで居心地悪そうに先輩を見ている女生徒も。
多分あの二人は、僕と同じ二年生だ。

「――は元気? 宜しく言っておいてね」
幾分か普段より高めの、先輩の声がする。まだ放課後になって間もない時間。
他の生徒が行き交う廊下でその声は全く響かない。
けれど、断片的に聞こえる声は随分と猫を被っていた。
「――はい。――は変わりなく…ええ…――」
対する男子生徒の声は、先輩のそれよりも聞き取り辛い。低い声でぼそぼそと呟くような喋り方だ。
男子生徒は何事か先輩に告げた後、傍らの女生徒を見る。彼の視線を受けた女生徒は、何故か顔を真っ赤にして俯いてしまった。

と、その時。先輩が男子生徒達にバレないよう、ちらりと僕に視線を送って来た。
先に行っていてくれって事だろう。
僕は他人を装って、先輩達の近くを横切った。


先輩が駅の改札前にやって来たのは、それから五分後の事。
「いや、悪かったな。待たせてしまった」
「いいえ。…知り合いですか?」
僕は首を振り、ずっと気になっていた問いを掛けてみる。
それに対し、先輩は笑顔で頷く。さっきみたいな猫被りではない、本当の先輩の笑顔だ。

「ああ。彼は、私の数少ない友人の弟君なんだよ」
その声には何だろう、優しさとか誇らしさとか、色々な感情が混在しているような気がした。
本当に、その友達の事を大切にしているんだろう。その友達の弟の事も気にしているんだろうと、思わせるような。

「君、同じ学年だろう。彼の事を知らないのか?」
「…さあ。何となく見た事あるかなってくらいです」
きっと体育の合同授業とかそんな所だろうと思う。
全く印象に残っていない訳ではない、けれど名前は覚えていないこの感じは。
「活海逆人君だ。まぁ、いずれ話す事もあるかもしれないし覚えておくといい」
活海逆人(かつみ さかと)。…ううん、聞いた事はあるような、そうでもないような…。
先輩からすれば友達の弟であり、知り合いだ。
けれども、僕としては彼と関わる未来は全く見えない。
クラスも違うし、僕は部活を抜け委員会にも入ってないから、会うとしたらそれこそ合同授業くらいだろうし。
先輩の言葉に対し、「はあ」と曖昧に返した僕は「そろそろ行きませんか」と進言。

目的地を目指し、先輩の示す改札を抜ける。
…筈だったのだけど。



[*前へ][次へ#]

12/20ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!