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絵描きな僕とオタクな先輩。
先輩の優しさ

「おはよう後輩君。いい夕焼けだな」
にやにやと嫌な笑みを浮かべながらも、その声はこちらが苛立つ程に爽やかだ。
僕の反応を愉快げに見る先輩は、「君の寝顔はたっぷりと堪能させて貰ったよ」などと言ってくる。
「しかし本当はもう少し見ていたかったのだがな」
「…僕の寝顔を見ても何も楽しい事なんてないでしょう」
「いいや、ある。私は君の色んな表情を見たい」
……。
いつもは可愛い女の子がどうのこうのと言っている癖に、こっちが油断しているのを見計らったようにそんな事を言うんだ。
いつの間にか先輩の表情からはからかいの色は消えて、優しい…そう無意識に思える微笑みを湛えていた。
そんな顔で即答されたら、僕はもう何も返せない。返す言葉なんて咄嗟に思いつかない。

「君の笑った顔も喜んでいる顔も、もっと見たい。怒っていたら何かあったのかと思うし、もし悲しんでいたら傍に寄り添いたいと思う。

私が君に対してそう願うのは、もしかして許されない事なのかな?」

――ずるい、と思った。
そんな風に言われて、否定出来る訳ないじゃないか。

先輩は一年前僕に何が有ったのかは知らない。教えていないし、先輩から何かしら聞いて来たのは出会ったばかりの頃に一回だけ。以降は僕に過去を問い掛けて来る事は無かった。
でも、時々何かを察したように、今みたいな優しい笑みを向けて来る。優しい言葉を掛けてくる。
それは気遣いとかじゃなくて、あくまで先輩の意思で齎された行動で。

先輩は何も知らない筈なのに。知っているのは僕が一年前美術部に所属していた事だけなのに。
たやすく僕の心の中に入り込んで来るんだ。
それは辟易してしまうくらいに無遠慮で、でも申し訳なくなるくらいにあたたかくて。

…だから、先輩の事は苦手なんだ。
僕は改めてそう思った。

だって、絶対に勝てない、僕なんかには到底叶わない人だから。

「…先輩」
何も返せない僕の呟きに被さるように、先輩の一転した明るい声が響く。

「さて、フラグは立ったかな」
「は」
ぐい、と僕の頬を手で包み込んで来た先輩の表情にはさっきまでの優しい笑みはない。
「後輩君、今私の目には君の惚けた可愛いらしい顔と、その下にふたつの選択肢が映っているよ。
ひとつ、君を思い切り抱擁してからキスする。
ひとつ、君にキスして流れで押し倒す。
さてどっちが」
「どっちも嫌に決まってるでしょう!
フラグなんて断じて、これっぽっちも立っていませんから止めて下さいッ!」

しかも両方キス入ってるし、後者に至っては流れで押し倒すってっ、先輩はホントにもう…どうしようもないっ!

僕の猛反発を受けた先輩は明らかに機嫌を悪くして「何だ、君。そんな事ばかり言っているといくら私でも君を空気読めないKY君と言わざるを得ないよ」などと減らず口を叩く。


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あきゅろす。
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