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tvxq
9095(アレロク)
従順そうな執事で
「こちらへ」と導かれ
回廊の火を点けて
「赤を右に」と言った










気がついたら、扉の前にいた。

手を伸ばした途端、触れてはいないはずなのに扉はゆっくり開いた。



導かれるように扉の内側に足を踏み入れ、回廊を進むとまた扉があった。

最初の扉とは異なるかたちをした扉。
もう動かなくなった回転扉だろうか。





「どこへ行くんだ?」





不意に背後から、柔らかく声が掛けられた。





「え…あの、僕、気がついたら」

「知ってるよ」





慌てて振り返った視線の先にいたのは、柔らかな栗色の髪をした青年。
全身が黒っぽいスーツに包まれていて、少し傾いて頭に乗せられている帽子(僕にはなんていう帽子なのか分からないけど、シルクハットを小さくしたようなあれだ)が彼の顔に影を落としているため余り表情は伺えない。





「ここは、」

「どこなんですか、なんて聞くなよ。聞かれてもおれは答えられないし、その答えはお前しか知らないんだ」

「…夢?」





思ったままを口にしたあと、余りに自分の発言が馬鹿らしくて顔が紅くなるのを感じたけれど、彼は曖昧に微笑んだまま、穏やかな声で続けた。





「お前がそう思うなら夢かも知れないな。まぁ、どちらにしろ―――」





視線で僕について来るように合図をして、更に暗闇へと歩を進めた。

徐々に影を濃くしていく青年は人当たりの良さそうな雰囲気なのに、僕は一向に声が掛けられなかった。
声どころか、一歩も動けない。



だって
あまりにも似ているんだ。
僕の大切なひとに。





「―――お前が望む答えは、ここから出れば、分かるだろ?」





そう言って彼はひとり、どんどん闇に飲まれていく。






「アレルヤ」





青年にまた声を掛けられて、はっと意識が現実に引き戻された。





「ここ、座って」





僕は一歩も動いていないはずなのに、気がついたら先ほどとは違う部屋にいた。

床には一面に花の絵が描かれていて、花なんて僕には到底名前も分からなかったけれど、ひどく美しく目に映った。


その部屋には椅子しかなかった。
塗装の施されていない、木目が特徴的な揺り椅子。




言われるままにそこに座り、途端に背筋が硬直した。





「アレルヤ?どうした?」





明らかに顔色が変わったことは自分でも分かる。体中の血が下がっているんだ。
心配そうに、と言うよりは面白がるような声音で青年が僕に尋ねる。





「…いいえ、なんでも」





別に木や木材に詳しい訳ではない。
ただ、この香だけは覚えてしまったのだ。
楡は、棺に使う木材だから










長い回廊に響く
「どこかで会ったでしょうか?」
... 「青は赤の左に」

錆付いた天使の羽根
貘が捨てた昨日の夢
先の鳴る方へ
目隠しをして









青年が指を鳴らすと、視界が闇に染まった。
僕に残された感覚は、柔らかく冷たい青年の声と、嗅ぎ慣れた楡の香り。





「聞こえる?アレルヤ」

「……」

「アレルヤ」

「……」

「お前が今から何を見ても、七つ数えるまで、目を開けちゃだめだ」





何故か青年が辛そうに口を動かしている気がして、僕は深く頷いた。
青年から僕が見えているかは、分からないけど。





暫くして、視界が明るくなった。
僕は確かに目を瞑っているけれど、今更そのくらい不思議ではないと思っている自分がいた。


頭のなかで、青年の声が短く言葉を発した。
あまり親しみのない言語だったけれど、多分フランス語かなにかだろう。
彼が、僕の大切なひとが、昔教えてくれたような気がする。



白っぽい視界のなかに、古い映画のように映りの悪い映像が流れている。





「プトレマイオス?」





見慣れた機体が、しかし見慣れた姿とはかけ離れた状態でぽっかりと宙に浮いている。
辺りに漂うモビルスーツの残骸は、戦闘の直後ということなのか。



また、青年がなにか呟いた。



映像が変わり、どうやら別の戦闘空域を映しているようだ。
その視界の端に不安定に揺らめく機体が映る。
僕がそこに意識を集中させると、ゆっくりと機体がクローズアップされていく。



青年が、辛そうな声音で急ぐように3度声を発した。




ようやく機体の直ぐ側まで近づくと、黒っぽく少し粘性のある液体が大量に浮遊している。





不思議と心臓の動きが早まる。
第六感が警鐘を鳴らし、無意識に息を止めていた。





黒い視界の奥、漂う細い身体。
色の無い世界が、不気味に色づき始めた。



「six」
今度ははっきり聞き取れた。
英語ではない言語においても、6の意を示す。




フルフェイスのヘルメットがスローモーションでひび割れていく。

暗闇に、広がる栗色。
柔らかなそれを、僕が見間違えるはずがない。
その香りも、感触も、何もかも覚えているというのに。






「ロックオンッ!!」





思考が追いつく前に目を開けていた。

視界に飛び込んできたのは、自分の腕のなかに収まり穏やかに寝息をたてる愛しいひと。



やはり、夢だったのか。



眠っている彼を起こさないように抱きしめる腕の力を強くする。
離さないように。





「ロックオン、きみを」
守るから。











もう何も探さないで
そばにいるから
目を開けてしまったのなら
戻れなくても...
それでもいいのなら
そっと





┼┼┼┼┼
「9095」:東方神起
1stアルバム「The Secret Code」収録曲

9095の不思議な雰囲気好きなんですよねー
ただものすごく難産でした(笑)
ほんとはサビの歌詞も使いたかったんですが…
気になる方は聴いてみてください^^

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