[携帯モード] [URL送信]

tvxq
TAXI(兄弟)
絡めた指を解く度
その温もりを握り返した










「今日、ヒロと夕飯食べたい」

「…奢れってか」





少し低い位置から、掬い上げるような瞳で強請ってくる弟。





「まぁ、給料入ったし。いっか。一緒に行こう」

「さすが兄ちゃん、だーいすき」





「だいすき」という言葉が酷く胸に刺さる。
こんなにも、痛いくらい、好きなのに。





少しだけ手が触れあって、直ぐに離れた。熱が離れて行く感覚はいつも寂しいけれど
それでも「一緒に居られる」と思うだけで、俺の心は色が着いたように明るくなる。


スタジオの重い扉を開けて、蛍光灯のなかを抜けて行く。





「ていうか健児、まだ食べるの?さっきケーキ出たのに」

「お腹空いたし。ケーキはご飯じゃありませーん」

「…ダイエット」

「うー…き、今日はお休みっ」





いい年をした男にしては可愛らしすぎる反応に、俺は声を上げて笑った。
拗ねたように睨みつけてくる瞳も愛しくて笑みを深くすると、俺につられるように健児も笑う。

俺が、そんな他愛ない出来事も勝手に思い出にして、心に刻み込んでいることも知らずに。




「今日は、ヒロんち泊まっていいよね?」

「…ダメに決まってんだろ、馬鹿」

「えー!!いいじゃんっけちっ」

「誰がけちだ。」

「ヒロ」

「お前な、ちゃんと帰る家、あるだろ」




冗談じゃない。
ただでさえ色々アブナいのに、泊まられたりしたら、俺は弟相手に何をするか分からない。

何より、こいつには将来を誓った人がいて。

甘えたような声も、反抗するように押し付けてくる肩も。
まっすぐに俺を見つめる瞳さえ



俺のものじゃ、ないんだ。





自動ドアを抜けて、ビルの建ち並ぶ空を見上げる。
既に、夜より朝が近いような時間帯だ。



するり、と健児の温かいてのひらが俺の腕をとる。





「別に疚しいことしてる訳じゃないから大丈夫だって。おれ、ヒロのベッド好きだし」





こんなの一瞬の夢だと分かっていても、柔らかい肌の感触を確かめている。





「するかもよ」

「なにが?」

「疚しいこと」

「え…」





俺はなにを言ってるんだろう。
こんなこと言っても、健児を困らせるだけなのに。



年の近い兄弟で、子供のころからずっと一緒で
でも
どんなに側にいても。


俺の気持ちは伝えられない。


それは健児の未来を壊さない限り、叶わない願いだから。





「…冗談だよ」

「な、」





明らかに硬直していた健児の口元がひくりと動き、それから一気に表情を崩した。





「なんだよーっ。真面目な顔して冗談とか言うなって。ヒロ、似合わないんだから」





乾いた笑い声を漏らした彼の背後に映った空が明るみはじめた。


夜が、終わってく。


離れていく弟のてのひらを、無意識のうちに掴んでいた。





「…ヒロ?」

「あ、ごめ。なんでも、ない」





はっとして手の力を抜いたけれど、明らかに挙動不審な態度に健児の眉は下がっていた。

笑って誤魔化すと、察しのいい弟は深くは聞かずに曖昧に微笑んだ。










ひとときの夢 痛いほど好きなのに
夜が終わってく










東京は季節を問わずに煌めいている。

空腹を満たした俺たちは、ゆっくりと歩道を歩いて。
俺は、次はいつ訪れるか分からない時間を味わうように、会えなかった時間を埋めるように、健児をじっと見つめていた。



ふいに、健児の携帯がけたたましく喚きはじめた。

俺に断りをいれてから少しはなれて通話をはじめた弟に、抱きしめたい衝動にかられる。
抱きしめちゃいけない
相反する気持ちに歪な心は、溢れるほど、溶けるほど、求めているのに。



会話を終えたらしい健児は、小走りに戻ってきた。
表情から、なんとなく何があったか予想はつく。





「ごめん、ヒロ。やっぱ帰る」

「そ…か」

「電話でくるとは思わなかったよ。兄貴んち泊まるっつったら怒られた」

「そりゃ、そうだろ」





誰に言われた、なんて愚問でしかない。
兄弟の家に泊まるなんて、巷じゃ典型的な浮気の言い訳だろう。
それを電話口の女性が疑ったのは、健児のことが好きだから。
健児が疑いを晴らすために帰るのは、自分はあなたのものだとその女性に示すため。
胸の深いところが痛む。
わかりきった事実がこの上なく痛かった。

ひとかけらも、こいつは、俺のものじゃない。




道に向かって右手を上げると、吸い寄せられるようにタクシーが止まった。





「じゃあ、ヒロ」





車に乗り込んだ彼の右手が小さく揺れる。




「ばいばい」





今生の別れじゃないことくらいわかってたけど

俺は
なにも、言えなかった。










TAXI止めて
約束も交わさずに
君が手を振る




オワリ
┼┼┼┼┼
「TAXI」:東方神起
4thアルバム「The Secret Code」収録曲

歌詞が短くて困った(笑)
兄弟で挑んだのが敗因←

[*前へ][次へ#]

5/14ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!