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蛇足

「何だよ………よしお、やんのか?」

「………っく」

「(ラピュタもいいけどナウシカもいいよな)」


楓が早々に現実と向き合うのを止めた時、突然教室の扉が勢いよく開かれた。

「何やってんだお前ら」

蛭池登場


楓は教室に響いた高校生とは思えぬ渋みのある声に現実世界へと一気に引き戻された。

デジャヴ

楓の中でその言葉が浮かんだ。

何だか周りのクラスメイト達のテンションが異様に上がっているが、その事に楓は気付かないふりをした。

彼らの行動や言動にいちいちつっこんでいては自分の体力が枯渇してしまう。



……蛭池君、相変わらず空気の読めてない登場だな。


楓は以前よしおにパシられそうになった時の出来事を思い出しながら蛭池へと目を向けた。


でも今回は……
ナイス登場蛭池君!

「……池ちゃん」

しかも今回は蛭池の登場に彦星の威勢が一気に下がったのを楓は彦星の声から察した。

蛭池も蛭池でサングラスによりその奥を伺い知る事は出来ないがジッとこちらを……いや、彦星を見つめているようだ。

「彦坊……お前」

「池ちゃん違う!仲良くしてたんだ!」

「そうか……彦坊…楓のその顔は楽しそうな顔なのか?」

全く話が見えてこないが、彦星が相当慌てている。

ゴーイングマイウェイの彦星にしては珍しい反応だ。


「……彦星?」

不思議に思った楓は彦星の腕に手をやると、彦星はびくりと体を震わせた。

「……楓」

彦星は楓に回した腕の力を緩めながら、上から覗き込むように楓の顔を見つめた。

そんな彦星に楓も顔を上に向ける。

その時見た彦星の顔は、ひどく慌てたような不安そうな顔だった。

「楓……俺にこうされるの……嫌だった?」

「うん」

「……っ!」

楓が即答すると彦星はショックを受けたような表情を浮かべ、そろそろと楓に回した腕を外した。


まったく……


楓は困ったように溜め息をつくとクルリと彦星へと向き直る。

そこにはビクビクした様子で楓から目を逸らす彦星の姿があった。

さっきまであんなによしお君に凄んでたのに。

そう思うと今目の前に居る、飼い主に怒られた犬のような姿の彦星に楓は自然と笑みが零れるのが止められなかった。

「……彦星。俺前言ったよな?」

「…………」

「俺は人と話す時はキチンと向き合って、お互いの目を見ながらじゃないと嫌なんだ。相手の顔が見えないのは凄く不安になるからね?」

「………不安?」

「そう、だから俺は彦星と話す時は彦星の顔が見たい。彦星も何か言いたい事があるなら俺の目を見ながら話してよ?ね?」

楓がそう微笑みながら言うと、彦星は恐る恐る楓と目を合わせてきた。


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