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蛇足
大丈夫だよ、よしき君
「な…にを、根拠にそんな事を……」

「根拠もなにも……よしき君、キミ現に今伸び悩んでんじゃないの?成績」

「うるさいっ!」

よしきは楓の言葉に弾かれたように顔を上げると、肩を震わせながら楓を睨みつけた。

「うるさいんだよ!さっきから!お前に何がわかる!?蔦屋にしか受からなかった……受験に失敗したお前なんかに……何がわかるんだよ!?」

今までと違い、必死の形相で言葉を放つよしきに、楓は確信した。

よしきは……言われてしまったのだろう。

今の時期、夏休みを前にしたこの時期は受験生にとっては最初の本格的な進路指導が入る時期だ。

よしきはきっとそこで


「紀伊国屋、受からないって言われたんだろ?」

「…………っ!」

楓の言葉によしきの表情が一気に辛そうに歪んだ。

あぁ、やっぱり。

きっと同様の事を、彼は塾でも言われてしまったのだろう。

よしきの浮かべていたあの人をバカにするような目。

楓はそれを中学時代嫌という程見てきた。

そして、その目を浮かべる者は必ずといっていい程、挫折を前にした者だった。

落ちる成績

伸び悩む成績

志望校に届かない成績


そんな挫折に片足をつけた者程、自分を安心させ、大丈夫だと思い込む為に下の者を見て嘲笑う。

そうして、下を見て嘲笑う者は必ず次の瞬間には、彼ら自身が本格的な挫折へとドップリ浸かってしまうのだ。

そして最後には、彼らが今度は下になるのだ。

楓はそんな者達を間近で見てきた。

挫折を前にして、下を見る者に再度這い上がってくる者は誰一人として存在しなかった。

よしきは今まさに

その状態に居る。


「ねぇ、よしき君。何で成績が伸び悩んでるか……わかる?」

「うるさい……うるさいよ……あんたなんかに…何がわかるんだよ……」

力なく頭を垂れるよしきの姿に楓は静かに、だがハッキリと言った。

「よしき君……顔、上げようか」

「………」

「上げなさい」

有無を言わさぬ楓の言葉に、よしきは恐る恐る顔を上げた。
あんな目で、あんな人を馬鹿にしたように目で見られるのは耐えられない。

落ち続ける成績

諦めかけたような教師の顔

どんなに塾に通っても

いくら優秀な家庭教師を雇っても

どんなにもがいても

もう


「…大丈夫、大丈夫だ。よしき君」

「……っ」

「キミなら行けるよ、紀伊国屋に」

よしきは自らの耳に聞こえてきた優しい声色に、

目の前にある優しい笑顔に


微かに体を震わせた。


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