蛇足
お兄さんの居所1
よしおはブツリとケータイの電源ボタンを押すと、小さくため息をついた。
よしき。
よしおは自分の弟の、人を見下したようなあの目を思い出すと、チッと舌打ちをした。
よりにもよってこんなに早くよしきと楓が遭遇することになろうとは。
できる事なら会わせたくなどなかった。
しかし、やはりよしきと自分が同じ家に住んでいる以上、
楓がウチにバイトに来ている以上、この遭遇はいつか為されることになっていたのだ。
仕方なかったのだ。
だが、いくらよしおがそう考えようとしても、よしおはその事実をはい、そうですかと易々と受け入れる事はできなかった。
「(………よしきの奴、次会ったらタダじゃおかねぇ)」
自分の事はどう思われても、言われてもいい。
何だかんだ言っても奴と自分は兄弟なのだから。
我慢できる。
しかし、いくら弟でも自分の大切な人を馬鹿にするのは、どうあっても許せない。
それは楓が特別というワケではなく、しげるや、たける、それにてつやにだって言える事だ。
だからよしおはどんな事があっても“友人”と言われる者達を家に呼ぶ事はなかった。
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