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蛇足

怒ってくれるのは嬉しい。
本当に嬉しい。

しかし、よしおが弟を殴るというのはいただけない。

自分もよしお同様、弟が居るせいか、弟を殴るよしおの姿などどうしても見たくないのだ。

「寒くていい……君、よしき君だっけ……早く部屋に戻ったら」

楓は顔の見えない相手に静かに言うと、よしきは小さく鼻で笑った。

「言われなくても戻るよ。このままじゃ本気でソイツに殴られそうだしね」

よしきは軽く言うやいなや、ガタンと音を立てて入口の戸を閉めた。

足音が遠ざかっていく。

どうやら、よしきは自宅へと戻って行ったようだ。

楓はほっとして胸を撫で下ろすと、よしおを掴んでいた腕の力を一気に抜いた。

「(よかった……)」

本当に一時はどうなる事かと思った。

すると楓の後ろから、先程まで通路の脇に尻もちをついていたよしえが楓のもとまで小走りでやってきた。

「楓ちゃん、大丈夫?」

「あ、いえ。俺は大丈夫です。あの、よしえさんの方こそ大丈夫でしたか?」

「こんなのいつもの事よー。それより……よし君、よし君はもう高校生なんだから、弟を殴ろうとしちゃダメでしょう」

先程の緊迫した状況から打って変ってのんびりした声が店内に響く。
しかし、当のよしおはそんなよしえの言葉に全く反応を示さない。

「もう、よし君聞いてるの?」

再度よしえが声をかけるが、それでもよしおは返事どころかピクリとも体を動かす事すらしなかった。

よしえは余りにも反応を示さないよしおに、どうしたの?と首をかしげると、サッとよしおの前に回り込んだ。

「あら、よし君……」

するとよしえの目に映ったのは

「……お顔真っ赤よ」

顔を真っ赤に染め上げて固まる、息子の姿だった。

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あきゅろす。
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