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蛇足
間一髪
楓は力の限り叫ぶと、よしおを掴む手に力を込めた。

「……っ」

「よしお君、ダメ。殴ったらダメだ」

静かに言い聞かせるように言葉を紡ぐ楓に、よしおは体を強張らせたまま全く動く事が出来なかった。

背中に感じるこの暖かいぬくもりは、言わずもがな楓のものだ。

よしおはそれを理解した瞬間、体中の熱が一気に上がっていくのを感じた。

しかし背中からよしおの体を拘束している楓は、よしおのそんな状況になど全く気付く事なく必死によしおの体にしがみついた。

動かない二人。

楓はよしおを止めるために切羽詰まり。
よしおは、自らの体に抱きつく楓にの存在に切羽詰まっていた。

男二人が、あまり広くない、色とりどりの花に埋め尽くされた店内で密着しながら固まっている様は、どうしようもなく滑稽としか言いようのないものであった。

すると、その様子を今まで黙って見つめていた、よしきが冷めた目を二人へ向けて「へぇ」と皮肉ったような声を上げた。

「あんた、言ってる事相当寒いね」

よしきの顔は見えないが、よしきの放ったその言葉が自分に対して言われていると分かった瞬間、楓はぎゅっとよしおを掴む手に力を込めた。
この、友達想いの同級生は自分の事を言われるより楓の事を言われる方が許せないのだ。

以前、楓が裏で同級生から陰口を言われていた時もそうだった。

あの時も、まるで自分の事のように怒ってくれた彼に、どれほど自分が救われたかしれない。


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