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「ねえ、どうして部長ってそんなに無口なわけ?」

 付き合い初めて二ヶ月。

 もとから無表情で無口な人だとは分かっていたけど、ここまで無口だと不安に思うことがある。

「……そうか」

 休日に、せっかく彼の部屋で二人きりだというのに、さっきから彼は難しい洋書から視線を外さない。

「そうか、じゃないよ! さっきからそんなもんばっか読んで。 人の話聞いてないでしょ」

 彼のベッドで寝転んでいた俺は、苛々してガバッと上半身を起こす。

 少し離れた勉強机で本を読んでいた彼も、さすがにこちらを見た。

 似合い過ぎる眼鏡を高い鼻梁に押しつけて、ゆっくり溜め息をつく。

「話はちゃんと聞いている。 それに俺はこうゆう男だ。 それが分かっていてお前は俺と付き合っているんじゃないのか?」

 なにを今さら、みたいな顔でいけしゃあしゃあと言われたら返す言葉も飲み込んでしまいそうになる。

「分かってるよ! ……だけどさ、たまにでいいから言葉や態度が欲しいって思うんだよ。 部長が俺のことん好きだって証が欲しいんスよ……」

 言いながらだんだんと泣きたくなってきて、うつ向いて自分のスボンをギュッと握ってしまう。

 だって、まるで俺だけが部長のことを好きで、俺だけが部長を求めているみたいだから。

 本当は告白を受け入れてくれた時から思ってた。

 部長はどうして俺を受け入れてくれたんだろうって。

 二ヶ月付き合って、手を繋いだことやキスをしたことはあっても、躰を繋げたことは一度もないから尚更だ。

 それどころか、手を繋ぎたい、キスをして、と求めるのはいつも自分からだった。

「……越前」

 泣きそうな俺を見て、彼は同情したのか椅子から立ち上がり俺の元へと近づいてくる。

「……こっち来んな!」

 それについ声を荒げてしまう。

 だって俺が欲しいのは、そんな優しさじゃない。

 ……同情や情けなんていらない。

「……越前」

 俺の震えている怒声を聞いて、彼の俺を呼ぶ声が優しく切なくなった。

 そして、彼はゆっくり俺の目の前まで来てその足を止めた。




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