[携帯モード] [URL送信]

短編



その旋律は何度聴いても、耳に馴染みそうではあったが、心に馴染むことはなかった。



夜、真っ暗な部屋の中、絳攸はソファーに座って何気なく夜景を眺めていた。街はネオンで輝いていて綺麗だった。何時もと変わらずに。世は何も変化はないのに自分の周りには在って欲しくない変化があった。

ふと、壁に掛かっているカレンダーを見る。既に過ぎ去った日にちには赤いマーカーでバッテンがつけられていた。
ゆっくりとした動作で絳攸は立ち上がるとカレンダーに近寄って、闇の中でも際立つ白く細い指でマーカーの跡をなぞる。床には全ての日にちにバッテンを書かれた本体から切り取られたカレンダーが5枚横たわっていた。

これだけ日は過ぎた。今月はあと少ししか残されていない。なのにアイツはまだ帰って来ない。連絡さえもない。


会って、声を聞いて、その体を抱きしめたい。触れ合って、温もりを感じていたい。


たったそれだけを望んでる。なのに、出来ない。嗚呼、苦しい。

カレンダーに片手をつきながら、顔を少し横に傾けてまた夜景を見る。
こんなにも苦しいのに、世界は変わらずに廻り続けている。



その夜景から逃げる様に絳攸は家を飛び出した。





[次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!