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短編


嘲笑う様に自分を照らすネオンから逃げる為に絳攸はひたすら走り続けた。




その旋律は何度聴いても、耳に馴染みそうではあったが、心に馴染むことはなかった。



旋律は美しかった。しかし何かが欠けていた。欠けていたモノは失ってからでないとわからないモノだった。それがないと旋律は心には響かない、届かない。受け入れられることもない。それを今更知るとは、なんて愚かだ。




その旋律は―――“空虚”であった。




息が切れるまで走り続け、絳攸は立ち止まった。
周りを見渡すと、小さな公園だった。しかも知らない。

「ハッ…!完全に迷ったな…」

自嘲気味な笑みを漏らしながらベンチに座り込んだ。何時もだったら楸瑛が探し出して一緒に帰るのに。からかってくる楸瑛を自分は怒鳴り返して。そして最後に楸瑛は

“迷子になった君を連れ戻すのは私の役目だからね”

と言って手を繋いでくる。それが今はない。
とても―――寂しい

「しゅ…えい」

寂しさを紛らす為に小さく名前を呼んだ。

すると、体が温かくなった。そうか、アイツの名前を呼ぶとこんなにまで安心するのか。
ホッと息をつくと、肩から何かが擦れ落ちた。

それは黒のロングコート。

バッ!と後ろを振り向くと微笑みを称えた楸瑛が立っていた。





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