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ハピネス
-4-
洋平は家から5分ほど行った花道の家のインターホンを鳴らした。
ガチャリとドアが開き、「入れよ」と花道が出てきた。
居間へ入るとテーブルには美味しそうな匂いを立ち上らせた料理が並んでいた。
「おじゃまします」
茶碗にご飯をよそっている花道の母にお辞儀をした。
「そんなにかしこまった挨拶は抜き。座って」
ご飯を盛った茶碗が置かれる。
「いただきます」
彼女はにこりとして「どうぞ」と言った。
まずは目の前の煮物に手をつけた。
煮物なんて自分でも作らないし、コンビニで買うことがあるぐらいで滅多に口にはしてない物だ。
「うまい」
「洋平、あんま褒めんなよな。調子に乗って毎日煮物なんてことになりかねないからよ」
「いや、ホントお世辞じゃねえんだって」
洋平の言葉にぼやく花道だが、そう言える花道が少し洋平だには羨ましかった。
いつも家になんていず、いたとしても一ヶ月の内一日いれば良い両親。そんな洋平だから毎日家に母親がいて料理を作ってくれるなんて理想でしかない。
「だって俺、おふくろが家にいた小学生んときも煮物なんて食わなかったしさ。時たま、葉山のばあちゃんが持ってきてくれるのぐらいだったしな」
「んじゃ、洋平の煮物の味はばあちゃんの味なわけか」
「そういうこと」
真鯵のひらきを焼いたもの。サラダ。豆腐。わかめとさやえんどうの入った白味噌仕立ての味噌汁。これらがその他の物だ。
魚がそんなにも好きじゃない洋平なのだが残さず食べた。
全てに箸をつけて平らげた。
「おかわりは?」
「もうお腹いっぱい」
本当にそうだった。全てにおいて量がとにかく多かった。洋平がいつも食べてる2倍は有にあった。
「おかわり」
花道は催促の茶碗を差し出す。
「本当にいいの?遠慮しなくていいのよ。馬鹿がつくぐらいこの子食べるからいっぱいあるから大丈夫よ」
「ホント。腹いっぱいだから」
断り、花道が食べ終わるまで入れてくれたお茶を飲みながら待った。
その後は花道の部屋に行った。
「洋平」
「うん?」
「お前、魚嫌いなのにおふくろのために食ったろ。それにいつも一人前だってよく残すくせに……あんがとな」
花道は照れながら言った。
「バーカ。礼なんて言うんじゃねえよ」
テーブルに肘をついて言う。
「それにしても今日はよく食ったあ」
後ろに手をついて洋平は腹をさする。
「二、三ヶ月分は食っちまったって感じ」
ごろりと横になり、腕枕をして目をつむった。
目を閉じると自然と眠気が襲ってきた。
満腹感が手伝って、ふぅっと体が気持ち良くなったと思ったのもつかの間の出来事。花道にのしかかられ起こされた。
「……っ!……」
せっかくの心地よいところを邪魔され洋平は花道を睨み上げた。
「洋平っ、寝んなよ。食べてすぐ寝んと牛になっちまうんだぞ」
「いい。牛になっても」
そう言って、洋平はまた目を閉じてしまった。
「洋平、起きろぉ」
今度はいくら起こしても洋平は起きなかった。
「ちぇっ」
つまんねえなと舌打ちをする花道だが客用の毛布を持ってきてかけてやった。
洋平は寝てしまい、相手がいなくなった花道は無造作に積まれている漫画の雑誌を取って読むことにした。
部屋の中はページをめくる音と微かに洩れ聞こえる洋平の寝息しかない。
寝ている洋平へと顔を向け寝顔を見る。
普段、学校などで見ている髪型と違って何もスタイリングなどしていない下ろしている髪。
それがとても新鮮に花道の目に映った。
髪の毛を摘んで離す。そんな行為を何度も花道は繰り返した。
細い洋平の髪の毛はサラサラと落ちていく。
ふと、ある思いが花道の頭を過ぎった。
触れるだけのキスならいいかもしれないと。
顔を近づけ、唇を重ねた。
柔らかいその感触に花道の胸はドキドキと鳴っている。
もしかしたら洋平にこの音が聞こえやしないかと洋平を見る。
起きる気配のない洋平に花道はホッとする。
唇を離し、少し濡れた洋平の唇。
「……っやべ」
それだけのことで花道の股間は元気いっぱいになってしまった。
これ以上洋平を見ているととんでもない事をしでかしそうな自分を感じ、花道はガタガタとNBAのビデオを持って急いで部屋を出た。
「花道、洋平君は?」
「え!?あ、寝てる」
女性週刊誌を見ながらお茶にお菓子と寛いでる母。
花道は母に背を向けてデッキにテープをセットしてかけた。

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