東方炎龍伝
敗北
私が意識を取り戻した時、私は自分のベッドにいた。
「おや?目を覚まされましたか。」
声がした方を向くと美鈴がそこにはいた。
彼女は頭や腕に包帯を巻いていた。
「貴方があの赤髪を倒して此処まで運んでくれたのね。礼を言うわ。ありがとう。」
「あ〜・・・それなんですけどね。実は違うんです。」
違う?あぁ、そういう事。
「では咲夜かしら。やはり彼女は優秀ね。」
「いえ、咲夜さんでもないです。全部、獄炎さんがされたんですよ。」
あの赤髪が?そんな訳ない。
「美鈴、貴方は面白い冗談を言うのね。そういうのは嫌いじゃないわ。」
「冗談ではないですよ。私、彼に功夫で負けてしまいまして・・・。本気でやったんですけどねぇ。自信無くしてしまいましたよ。」
美鈴が負けた・・・?
「負けたの・・・?貴女が最も得意とする功夫で、貴女が最も本気を出す事の出来る紅魔館の門前で。負けてしまったと言うの?」
「ええ。でも、負けて良かったかなって思うんです。あ、悔しくない訳ではないですよ。凄く悔しかった。」
「なら、何故良かったと思うの?」
少なくとも私ならば何処の誰かも分からない奴に負けるのは悔しいし、負けて良かったなんて死んでも思わない。
「私の技術にどうしても埋まらない溝があったんです。その溝を埋めようとしても今まで絶対に埋まらなかった。ですが、今回の敗北で私に何が足りなかったのか、やっと分かったんですよ。」
美鈴は嬉しそうにそう語った。
「負けて得る物もあるって事かしら?」
「ええ。そういう事です。では、私は門番に戻りますね。」
「そうして頂戴。」
部屋から出て行く時の美鈴の表情は彼女が紅魔館に来たばかりの時の清々しいものだった。
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