短編集 *愛しあう、愛、死、逢う ※レンが病んでます注意。 ぞぶり、と。 柔らかいモノを刺した感触が手のひらから伝わる。 「れ…、レン…君…ッ」 苦し紛れに、オレの名前を呼ぶ声が聞こえてくる。 それでも、オレの顔からは笑顔が離れなかった。 どうしてこうなってしまったのか、今となっては分からない。 どうして、カイ兄を刺してしまったのだろうか。 今ひとつだけ確かなのは、カイ兄が死んでしまう、という未来。いや、事実と言うべきか。 カイ兄は、オレの目の前で真っ赤な血を流しながら、浅い呼吸を繰り返している。 「れ、レン…君……」 それでも、カイ兄は必死に『生』にしがみつく。いっそ、死んだ方が楽だろうに。 「な、んで…っ、こんな、ひどいこと…」 「だから言ってるじゃん」 オレはカイ兄に微笑んだ。 「カイ兄が大好きだから。自分だけのモノにしたいから」 カイ兄の顔から、血の気が引いていくのがよく見えた。 そう、オレはカイ兄が大好き。 でも、カイ兄は人気者だから。それに、カイ兄は男だから。 オレとカイ兄は、立っている場所が違う。 ―ならばいっそ、殺してしまえばいい。一緒に死ねば、ずっとずっと一緒に居られる。 …これ以上、考えるのは止めた。 「カイ兄、バイバイ」 そう言って、オレはナイフをカイ兄に刺したまま捻る。カイ兄は、苦しそうに呻き声をあげた後、オレの方に倒れ込んできた。 カイ兄から温もりが溢れだし、カイ兄は冷めて逝く。 「あーあ、つまんない」 オレは空を仰ぎ見ながら呟いた。 空はオレを拒絶するように、どこまでも真っ暗だった。 「さて…、」 これで、オレがカイ兄を追いかければ。全て解決。 「カイ兄、待っててね」 カイ兄は待ってないかもしれないけど。むしろ、オレを恨んでるかもしれないけど。 ―それでもオレは、カイ兄を追いかけに逝くよ。 end. タイトルは暁月夜さまより、お借りしました(*´∀`*) ありがとうございます! [back][next] [戻る] |