機械娘は気持ちを探す
#10
風が、強くなりつつあった。
砂漠を走破したリージュが、レバー自体が大きく、誤作動の少ないセーフティーを外し、AKを構えて赤髪に近づく。たった5m程の距離、サイトは使わない。着弾地点を円で捉えるような感覚だ。
「動かないで」
男を抱いて、虚空を見上げる赤髪へ二度、三度と砂を蹴る。
「両手を頭の後ろで組んで伏せなさい」
砂上に放りだされたM82。それはまだ赤髪の手の届く範囲にある。しかし、赤髪はまるで反応の示さない。リージュに気がついていないのかとさえ思える程だ。
「聞こえないの。両手を頭の後ろで組んで伏せなさい」
二度目の呼びかけに、マネキンにポーズをとらせたように不動だった赤髪が不意に立ち上がった。男の体が砂漠に転がる。血まみれなその体から新たな血は溢れないが、風に乗った不快な匂いは鼻についた。
直立から少し足幅を広げ、腰を落とすリージュだが、赤髪はまた固まる。
だが、唇だけは動いた。『コロス』と。
唇を視認した途端、風が大地に吹き付け、砂煙りが舞い上がり、虚ろな目でこちらを見つめる赤髪の姿が視界から掻き消えた。
流れる砂が目に入らないようハンドガードにおいていた左手をかざし、目を細める。
が、その腕を砂の壁を破るようにして現れた何かに掴まれ、一言囁かれる。
「コロス」
間を置かず、7.62mmの野太い銃声が四回。
リージュがAKを発砲したのだ。
しかし、腕は掴まれたまま。離れるどころか、さらに強く握られる。
「いっ……」
あまりの握力に、リージュの表情が歪む。
砂が薄くなり、やっと掴んだ相手を認識した。赤髪だ。
突然、AKの銃身が弾かれ、右腕が右に流される。そちらに気をとられた瞬間、今度はひたいに衝撃。 なにをされたのか、リージュは理解できない。
状況を処理出来ないまま、足を払われ押し倒される。 にゅるりと伸びた両手が、間髪いれずに首を絞めつける。
「コロス」
砂はもう舞っていない。マウンドポジションをとる赤髪の表情が見て取れた。
口を半開きにしてただ、ポケッとしている。視線を交わしているのに、見つめ会っているという感覚が全くない。
赤髪には、明確な殺意がある。それは確かなのに、この表情はどうしたことだろう。
赤髪の肩を掴み、押すように引き離し、そのまま突き飛ばす。
跳ぶように立ち上がったリージュはすかさずAKを赤髪に向ける。
だが同時に、金槌のようなマズルブレーキの付いた銃口がリージュに向けられる。転がっていたM82だ。しかも全長1.5m近くあるそれを赤髪は左手一本で真っ直ぐに構えている。
「っ!?」
一瞬だが、リージュがトリガーを引くのを躊躇する。
その一瞬の内にM82は発砲され、銃口は水平から90°以上盛大に跳ね上がる。
しかし、AKは粉砕されたが、弾丸はリージュ本体に命中していない。
素早く切り替え、赤髪との距離を詰める。
跳ね上がった銃身がもとに戻った時点で、既にリージュは銃口より内側。つまり、絶対に弾が当たらない位置に移動していた。
それを無視するように、M82のバカでかい銃声。同時にリージュの脇腹を襲う衝撃。
「ッ、うッ」
体内の酸素が無理やり押し出される感覚と共に、衝撃が単純な打撃であることが感じとれた。
訳も解らず無意識に赤髪を突き飛ばして距離をとる。赤髪はユラユラ揺れて頼りない。
撃たれたのではない。ならこの衝撃はなんだ?
答えはすぐに出た。ダラリとした左手に握られるM82の銃身が曲がっている。
どうやら、発砲の反動を利用して殴られたらしい。(そんなのあり?)
バレルは60°くらい曲がっている。撃っても当たらない。というか、弾が出るかどうかすら怪しい。
わかっているのかどうかわからないが、赤髪は腕の動きだけで無造作に15kgあるM82をリージュに向けて投げつける。
左足を畳み、右足は横に伸ばすようにしゃがんでM82を回避、低姿勢のまま右ふくらはぎにあるレッグホルスターからUSPを抜く。
USPは、ドイツの銃器メーカーであるヘッケラー&コッホ社が開発した自動拳銃だ。9mmパラベラム仕様は、P8の名称で現在のドイツ軍の制式拳銃になっており、他のバリエーションを含めると、多数の軍、警察、国家機関等に採用されている。重量は約800g、装填数は15+1発。
素早く狙い、二回トリガーを引く。
発砲音と同時に赤髪の体が二回揺れるが、倒れたりはしない。
だが、それを見越していたかのように素早く切り替えたリージュは地面を滑るように接敵、右手をおおきく伸ばして赤髪のひたいから5cmほどの所にUSPを構え、トリガーを絞る。
USPが軽く跳ね上がると同時に、赤髪の頭がデコピンでも食らったかのように後ろへ弾かれ、一瞬の静止ののち真後ろに倒れた。
続いて、リージュも脇腹を押さえて片膝をつく。「今のは……やばかった」
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