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Hello, fine days
Hello,fine days<5>
茹だるような暑さの中での地獄の外回り仕事を終え、ようやく自宅にたどり着くと、いつもならお帰りなさいと笑って迎えてくれる茗は定位置のソファの右端で小さくなっていた。


「茗?」


呼び掛けても反応がない。転た寝かとそっとしておいて、付けっ放しになっていたテレビの電源を落とす。とりあえず、閉め切ったままのリビングの窓を開け放つ。籠った空気が息苦しくて堪らない。

少し湿っぽい夜風を部屋に入れると幾分息苦しさは紛れた。そしてエアコンのスイッチを入れると徐々に冷えた風がいき渡って、冷気が逃げない内に部屋を閉め切った。

快適な空間が整って、ほっと一息つく。改めてソファで丸くなる茗を見た。よくあの暑さの中で眠れていたなと感心する。若いからだろうか、それとも喉に気を遣って空調を入れなかったのかもしれない。

今度は体を冷やさないよう、タオルケットを掛けてやろう。そう思って自室のドアノブに手を掛けた時、くぐもった声が聞こえた。


「茗、起きた?」


目が覚めたのか、その場からもう一度声を掛けるとまた声が聞こえた。明らかに寝起きのそれとは違う。弱々しいうめき声だ。

まさか。慌てて僕は茗の元へ飛んでいった。廊下で足を滑らせて転びかけたがそんなことは二の次。嫌な予感に背中から汗が吹き出す。


「茗!?」


リビングのドアを破らんばかりに開く。茗は小さく収まっていたソファの上にぐったり倒れこんでいた。
駆け寄って顔を覗き込む。いつも笑顔の彼女の顔は苦し気に歪んでいた。

触れた首筋が熱い。仰向けに横たえた身体も熱を持っていて、汗でじっとり濡れている。


「僕が分かる?」


肩を叩いて声を張ると、茗はか細い悲鳴のような返事をする。意識はあまりはっきりしていないようだ。

どうしたらいい、どうすべきなんだ。

僕の頭は混乱して、何をすればいいのか分からなくなっていた。

誰かに知らせなくては。誰か、誰か。

――誰か助けて。

咄嗟に思い出したのは心を預けられる、無条件に助けを求めてもいい人。絶対に茗とは関わらせたくなかったのに、今はその人しか頭に浮かばない。

握りしめた携帯電話はリダイヤルする。コール三回が永遠のように長く感じた。相手の声が聞こえるより先に言葉が飛び出す。


「留希、母さん、どうしよう、茗が倒れてるんだ」


現状を口にすると体が震えた。このまま呼吸が止まったら、心臓が動かなくなったら。嫌な予感が現実になりそうな恐怖。


『浩ちゃん、落ち着いて。救急車を呼ぶの。出来る?』

「救急車……」


『そう、救急車。大丈夫。三つボタンを押せば繋がるんですもの簡単よ』


そうか、救急車だ。病院に連れていかなくちゃ。


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あきゅろす。
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