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Hello, fine days
Hello,fine days<4>
「結婚すると変わるのかなあ」

「したい?」

「一応、僕、傷心なんだけどな」

「まさか」


火種をバーベキューコンロに放り投げ、フミ兄は笑う。さっき千切った新聞紙に火がつく。
恋愛を火に準えた表現を思い出す。
火は紙を侵略するようにじりじりと広がり、燃え上がる。やがて木炭に燃え移り、大きな塊になる。

これが恋なのか。

妙に納得した。自分の経験に重なる点はどこにも見られない、想像上の未知数な感情。

傍に居た人を、向かってきた人を愛そうとしただけの僕はそんなものは知らない。
元婚約者は僕が何かをひた隠しにするから、不信に思って別れを切り出したものだと決め込んでいた。でもそれはこちらの勝手な言い訳で、彼女は僕が恋も愛も抱いていないことに気付いていたのかもしれない。それも憶測の域を出ないのでなんとも言えない。確かめておけばよかったな。


「男の子だよ」

「なにが?」

「お腹の子」

「楽しみだね」


キャッチボールなんか、するんだろうか。ステレオタイプな想像をして顔が綻ぶ。やんちゃでも人見知りでもきっと可愛い。フミ兄と明日架ちゃんの子なんだから、絶対可愛い。


「名前、考えといて」

「えっ、僕が!?」

「名付け親、よろしく」


フミ兄と明日架ちゃんの子供。男の子。名前。
断片的なキーワードだけが頭を巡る。
困る困る。僕が名付け親なんて。嬉しいのか怖いのか、よく分からない。割合としては嬉しい方が勝っている。でも困る。困るんだ。

名前は一生背負うシンボルで、それをこんな、自分がそれも大好きな人達の子供の名前を付けることは、この世に出てきたばかりの無垢な赤ん坊に傷を付けてしまうようでとても恐ろしい。

無理だよ、と断る。逃げないで、と強く言われる。
追い詰められたネズミのように噛みつけたらいいのに、恐怖の中にいる喜びがそれを許さない。

だめ押しにお願い、と頭を下げられてしまって、とうとう僕は要望を飲んでしまった。

その後、たまり醤油をたっぷり塗った大好物の焼きもろこしを食べても、父渾身作の焼きそばも上の空で食べた。そうして、自宅までの道中も上の空で、茗の待つマンションへ、危うくコンタクトレンズを入れ忘れて帰るところだったのである。

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