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Hello, fine days
Hello,fine days<4>
フミ兄――茅島貴文、父のバンドのギタリストだ――が運転する車に揺られ、やってきたのはキャンプ場だった。元々穴場な上、シーズンオフで僕ら以外の客は居ない。


「フミ兄。今日、明日架ちゃんは?」


各々が宴の準備をする中、僕は一番年の近いフミ兄に訊いた。

フミ兄は物心つく前からギターを触っていたらしい。さながらライナスの毛布のごとく手放せないほど大切にしている。さっきも車の荷台に積んでいるのを見た。
けれど、同じくらい、いやそれ以上に愛してやまない奥さんの姿が今日はない。

留守番。
フミ兄は複雑そうにそれだけ言う。そっか、と言って僕は木炭を受けとる。話せば短い訳だろうが、フミ兄の口下手は筋金入りだ。深く追及するとストレスになりそうなので止めておこう。考えながら寡黙なフミ兄とふたり黙々とバーベキューコンロの準備に取り掛かる。


「転けたら怖いから、留守番」


燃えやすいよう、新聞紙を数枚千切り終えたとき、フミ兄が呟いた。ああ、そうか。ここは石がごろごろと乱暴だ。


「何ヵ月だっけ?」


明日架ちゃんのお腹にはフミ兄との子供がいる。
アッシュメンバーは良い年をした大人ばかりだけど、個々の理由から僕以外の子供はいなかった。僕は養子だし、実子としては最年少であるフミ兄と明日架ちゃんの授かった子が一番乗りだ。


「七ヶ月」

「お腹出てきた?」

「びっくり」


フミ兄の口癖が出た。今日は機嫌が良い。
出会った頃は取った取らない食べた食べてないなんて、些細な喧嘩をしていたが、三十才目前の彼はもう何年も前から、僕に不機嫌をぶつけることも見せることもない。
会う機会が圧倒的に減ったこともあるけど、ここ数年会う彼はとても穏やかだと思う。

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あきゅろす。
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