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Hello, fine days
Hello,fine days<4>

日曜日。
まだ陽が昇って間もない頃、僕は誰も居ない通りを歩いていた。ひんやりとした空気を胸一杯に吸い込んだ。

腕をぐっと伸ばすと窮屈さから解放されて肩が鳴る。素晴らしく晴れやかな気持ちだ。
試験明けの高校生の気分に似ている。

こんな早朝に外出したのには理由がある。
昨夜、父から「恒例のバーベキューをしよう」とメールが来たのだ。
父のバンドはデビュー前から頻繁に集まっては、メンバーとその家族数名を交えてバーベキュー大会と称した宴会を開催している。僕が父の仲間と初めて出会ったのも、そこだった。

というのも、そもそもその集まりは僕の存在がきっかけだったらしい。

彼らと出会った頃の僕はまだ人見知りが激しくて、いつも父か母の背中に隠れるばかりで。当時十歳にも満たなかった自分の世界は父と母だけで構わなかったから、他人との交流なんて必要なかった。けれどそれでは僕がこの先困るからと、設けたのだという。

だからその僕が欠席する訳には行かず、少し離れた地区に住んでいる両親の元へ向かっているのだけれど。


なんせ遠い。
駅の時刻表を見て、げっそりとした。会社関係や元婚約者から両親を遠ざけたくて、故意に遠くのマンションを購入したのだから当然だ。僕のことを知られないようにするには物理的な距離が必要だった。今考えてみれば付け焼き刃な買い物だ。

それでも別れるとは思ってなかったんだから、少なからず僕は彼女が好きだったんだろう。もうどんな感情だったかあまり覚えていないのはちょっと残念な気がした。


もしかしたらずっと独身かもな。

気付いてしまった無意識の癖。きっと僕はこの先出会う全ての人に本当のことは言えないのだろう。いや、言わないのだ。打ち明けて丸裸にされるのが、どうしようもなく怖いんだ。

窓ガラスに反射する素顔の自分。薄い色の着いたサングラスの奥からグリーンの瞳が見えた。

二十四にもなってなんて情けないんだ、僕は。
座席に寄り掛かって溜め息をついた。

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