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空涙(BL)


空涙



毒にも薬にもならない。


何の特徴もなく、ただ毎日を自分の能力の限界で生きている少年。


それが七竈 晶だ。(ななかまど あきら)


晶は何をしても失敗する、14歳の平均運動能力より下回っている、勉強においてもそうだ。あいつには何も誇れるものがない。


全てが人並み以下だ。


それに比べて晶の双子の兄である、七竈 琉(ななかまど りゅう)は頭脳明晰・体力測定は学年1位・美術の作品においては全国で賞をもらってくるほどの秀才ぶりである。


「僕がもう少し賢かったらお父さんを喜ばせてあげれるんだけど・・・」


体に不釣合いなぐらい大きくて高級なソファに体を埋めながら、晶は苦笑して呟く。
七竈家当主(つまり双子の父親)は大きな会社をいくつも所有しており、そのビジネスは最早世界を股にかけているほどなのだ。


そして、晶と俺を自分の後継者に相応しい男に育てるつもりなのである。


「俺の点数なら父さんは喜ぶんだろうね。」


何の気なしに俺のテストの答案を晶に見せてやったら、晶は目をまん丸にしている。


「うわ〜、やっぱり僕はお兄ちゃんには敵わないや・・・。」


 少しだけ寂しげな顔をした後晶は言った。


「やっぱりお兄ちゃんは僕の自慢のお兄ちゃんだよ!」


 そう言って笑った晶の笑顔は何よりも得がたい輝きを持っている。


俺が一生懸命に勉強しているのは、親父の自慢のコレクションになりたいからじゃない。


毒にも薬にもならない、この無能な弟の目も眩むような輝きを守るためだ。


俺はソファに腰掛けながら、晶の頭を抱き寄せる。


「親父なんかどうでもいいじゃないか。大切なのは俺たちがどう楽しく生きていくかだろう?」


突然の俺の問いかけに晶は大きな瞳をパチパチとさせていたが、


「そうだねっ、お兄ちゃん!一緒に頑張ろうね。」


そう言って可愛らしく微笑んだ。



――そうだ、この純粋無垢なる瞳の輝き。



これは努力しても手に入りはしない。


晶は生まれながらにその輝きを持っているのだ。


そして俺は生まれた時から、晶の美しい魂の輝きに平伏している。


・・・・・・・晶は気づいてすらいないけれど。


だから俺は晶を守る。ずっと毒にも薬にもならない晶のままにしておくんだ。


誰かに罵られようとも身を焼かれようともで消えうせるような想いではない。


俺は花瓶に刺してあった白い花を晶の髪に飾った。


「うわあ、綺麗な花だね。」


相変わらず晶は無邪気に喜んでいる。




夏にはこの七竈家に相応しい白い花を贈ろう。


秋には紅葉した葉を贈ろう。


それらは魔除けの効果があるから、きっと晶を守ってくれるだろう。


だから、晶。


何処かへ行こうなどと間違っても思わないでおくれ。


俺は偽りの涙を流しながら、晶をそっと抱きしめた。


「晶、俺を置いて何処かへ行ってしまうなよ。俺たちはずっと二人きりだったのだから・・・・・・これからも・・・・・・・。」


俺の涙に晶はひどく動揺して、必死に俺を抱きしめる。


「大丈夫だよ、ずっとずっと一緒だよ!」


空の涙ひとつでいつまでも晶を繋ぎ止められるならば、いくらでも俺は穢れた偽りの涙を流そう。


そう、全ては晶のために。




もし君がいなくなったら僕はどうしてしまうか分からないよ
(偽りの涙ですら枯れ果てるだろう)



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