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東方僧侶録
保元の乱
1141年7月10日の晩頭、左大臣藤原頼長が白河北殿に入ると、その下に源為義や平忠正等が集結する。

これに対して後白河・守仁陣営も、高松殿に武士を招集する。

その中に、ある親娘が居た・・・



「おーう・・・こんなに兵力集めちまって。むさ苦しいったらねえ」

「ちょっと父さん、しゃんとしてよね!私達はお爺ちゃんの代わりなんだから!!」

「んなこたぁどうでも良い。あんな妄禄ジジイよりも俺の方が強いし?」

「自分の親を貶すな!!」

彼等の名は源頼国と源楓。

源大将の異名を持つ源頼光の代わりに、この戦いに参加していた。



「相変わらず仲が良いですな」

「お久しぶりででございます。頼国殿、楓様」

挨拶してきた中年の男は平清盛、礼儀正しく挨拶してきたのはその息子の平重盛と言う。

清盛の率いる平氏と源氏は仲が悪く、何度も衝突を繰り返していた。

「おう、清盛か」

「共に戦える事、誠に嬉しく思いますぞ。それでは御免」

そして清盛は爽やかに言うと、笑いながら去っていった。




そして時間は経ち、あらかた兵士が集まると有力な武将を一箇所に集め、軍議を始める。


「夜襲をかけるべし!」

「義朝の言う通りぞ!一気に決着を付けるが上策じゃ!!」

その中でも、血筋で言えば遠縁の甥に当たる源義朝と、かつては公卿であった僧侶信西がかなり強硬に夜襲を提案していた。

「叔父上はどう思われる?」

「賛成だ。下手に長引かせるよりは、手早く始末した方が良い」

「頼国殿!まるで罪人を始末するように言うのは、止めて頂きたい!!」

頼国の言葉に反応した平重盛が怒気を孕んだ声で叫ぶ。

「重盛、皇族一人の命と朝廷を同じ秤にかけるつもりか?人を救うって事はな、人を殺める以上の度胸が必要なんでィ。大義を見失えば、救える者も救えなくなるぞ」

「くっ・・・」

だが、頼国の反論に何も言えなくなる。

頼国の言葉は正論だったのだ。

「とにかく夜襲の件は、帝に奏上しようぞ」

「我も共に参りましょうぞ!」

結論は一つに纏まり、信西と義朝は後白河天皇に報告に向かった。




そして7月11日未明、清盛の軍勢300騎、義朝の軍勢200騎、義康率いる100騎が第一陣として白河北殿に向かい動き出した頃、頼国と楓は白河北殿のすぐ近くに居た。

「楓、忍び込んで攪乱しろ」

「敵を見付けたらどうするの?」

「殺せ」

「全部?」

「全部だ。目に入る者、動く者を全て切れ。これは掃討戦だ」

「分かった。・・・父さん」

ブン

パシッ

頼国の言葉を聞いた楓は、塀を飛び越えようとするが、急に動きを止めて頼国に何かを投げ渡す。

「こいつぁ、俺の刀じゃねえか」

「念の為に持っていて」

チャキッ

ダンッ!

そう言って楓は、長刀を取り出すと塀を飛び越えて白河北殿に入って行った。

「ふっ・・・俺も始めるか」

それを見送った頼国も、正門に向かって動き始めた。




ヒュン、ヒュンヒュン、ヒュンヒュンヒュン

ズバッシャア!!

「次」

白河北殿に侵入した楓は、アクロバティックに動き回りながら次々に兵士達を殺していった。

「おのれ!!」

ヒュッ

「剣筋が単純」

バッ

ヒュン

ザシュッ!

「今だ!!」

ブンッ

スカッ

「えっ・・・」

「それは残像」

ビュン

ズバッ!

兵士達も必死に戦うが、ある者は攻撃を避けられ、またある者は残像の惑わされて殺された。

「次は・・・」

「我が相手をしよう」

次の目標を探す楓の前に、屈強な武者が現れる。

「我は鎮西八郎源為朝。女子の身でここまで出来るとは、敵ながら天晴れよ。名は何と申す?」

「今この場で死ぬ人に言う名前なんて無い」

ダン!

楓は無感情に言うと、一息で為朝に接近する。

「!」

「さよなら」

ヒュン

そして首目掛けて長刀を逆袈裟に切り上げた。

ガキン!

「・・・!」

「いきなり切り掛るとは、失礼ではないか?」

しかし為朝は素早く太刀を抜くと、それを防いだ。

「・・・(この人、強い)」

バッ!

「本気で相手をしてあげる」

カシャッ

楓は後ろに飛び距離を取ると、右手に持っていた鞘を口にくわえ、鞘に仕込まれた短刀を抜き放つ。

バッ

「死んで」

ダンッ!

ヒュヒュヒュン、ババババッ!!

鞘を投げ捨てると、楓は先程よりも数段速い速度で接近し、目にも止らぬ連撃を繰り出す。

その全てが急所を狙っていた。

ガン、ガキキキン!キィン!!

「ちえぃ!」

ビュン!

スカッ

為朝は全て防ぎ、がら空きになった胴を太刀で薙ぐ。

「残像か!」

「終わり」

ヒュン

ガキイィン!!

しかしそれは残像で、隙が出来た所を切り掛かる。

為朝はすぐに反応して防ぎ、鍔迫り合いになる。

「成程・・・お主『死神』だな?」

「その呼び名は嫌い」

ギギギ・・・

「ならこう呼べば良いか?『殺戮姫』殿?」

「私はそんな呼び名を許可した事なんて無い」

ガチチ・・・

「剥き出しの刃の様な殺気を出しておきながら、良く言えたものよ」

「・・・」

「お主、どうやら収まる鞘が無い様だな。いずれ己が身を滅ぼすぞ」

「・・・いくらか言っておく」

ガギギ・・・

「私はいつもこんな状態じゃない。いつでも切り替えられる」

「切り替えられるか・・・随分と使い勝手が良いな、殺戮姫殿」

「貴方も私と変わらない。私と同じ、人殺しの目」

ギリリ・・・

「そして・・・貴方に勝ちは絶対無い。何故なら・・・」

ジャギギンッ!

「!?」

「貴方はここで、私に殺されるから」

楓はガウンコートから無数の銃器を出し、為朝に狙いを定める。

「くっ!!」

バッ

ダダダダダダダダ!!!

為朝は急いで横に飛び、紙一重のタイミングで銃弾が通り過ぎる。

「(ここで戦い続ければ、被害は大きくなる一方だな・・・ならば!)っ!!」

「・・・逃がさない」

為朝は屋敷の中にわざと逃げ込み、楓はそれを追いかけていった。




「ん〜んん〜」

ドン!ドン!

正門から侵入した頼国は、拳銃一丁で次々に敵を倒しながら奥に向かっていた。

「我等は刃、源氏を護りし刃」

「ただ黙して受け入れよ、我等が刃を」

其処に笠を被った僧の姿をした男が二人現れる。

「天狼衆か・・・」



天狼衆・・・

清和源氏が誕生した頃から存在する暗殺集団で、裏で源氏に仇成す者達を始末してきた。

天狼衆の者は皆異様に強く、その頭領は源氏が誕生してから数百年の時が流れた今でも、死ぬ事無く君臨しているという噂も有る。

又、何故かは分からないが月の技術に精通し、秘密裏に空飛ぶ船を造っていたとも言われている。

しかし、その力を使い朝廷を思いのままに操ろうとし、かねてから天狼衆の存在を危険視していた頼光によっておびき出され、頭領である『天狼』諸共焼き滅ぼされた。



「そのテメェらが、何で生きていやがる?」

「元より我等の主は摂津源氏に非ず。我等の主は河内源氏のみ」

「頼光公には感謝せねばなるまい。頼光公が我等を焼き討ちをしてくれたおかげで、我等は悠々と古巣に戻る事が出来たのだ」

「ふん、テメェ等らしい姑息な手だ。親の失態は子供が拭うとするさ」

ドン!ドン!ドン!

頼国は素早く拳銃を向けると、直ぐ様発砲した。

天狼衆の者は左右それぞれ分かれて避け、そのまま飛びかかってくる。

「おらぁっ!!」

バキャッ!!

「!!」

頼国は攻撃が届く寸前に、超速で拳を顔面に打ち込む。

その一撃で絶命したらしく、その場に崩れ落ちる。

ズン!

「!」

しかしそのせいでもう一人が見えず、左肩を刃に貫かれる。

「源頼国・・・その腕前、我等に遠く及ばず」

「・・・何、肩ァ貫いただけで勝った気でいるんでィ」

ガッ

「!?」

頼国は左肩を貫かれたにも関わらず、表情一つ変えずに右手で頭を掴む。

ミシミシ・・・

「ぐ・・・がぁ・・・」

「安心しろ、一瞬だ」

ボンッ!!

その言葉と同時に、頭が消し飛ばした。

頼国はかつて武僧であった父頼光の能力を、非常に色濃く受け継いでいる。

頼光が修行の末に習得した技を使えても、何ら不思議ではないのだ。

「ちっ・・・」

ズブッ

敵を全滅させると、左肩を貫いた太刀を引き抜き捨てる。

「服に傷付けやがって・・・」



ワアアアァ・・・

「どうやら来た見てぇだな。合流するか」

頼光は味方の軍勢の雄叫びが聞こえる方向に向かっていった。



その頃楓は、為朝を追って屋敷に入り、死闘を繰り広げていた。

「この声・・・どうやら、我々は負けた様だな。どうだ、そろそろ我等も・・・」

「終わってない」

ヒュカッ

ズウウウゥン!

為朝が休戦を提案するが、楓は頷かず壁や柱を叩き斬りながら飛び込んでくる。

「人斬りは、一度定めた標的を斬るまで鞘にはおさまらない・・・そうでしょう?為朝さん」

楓はそう言ながら、柱を斬りまくる。

「お主は人斬りより柱斬りの方が向いてそうだな。収まる鞘が無いのなら お主におあつらえ向きなのを用意してやろう」

為朝はそう言うや否や、楓に向かっていき二人は柱を間にすれ違って止まる。

「・・・?」

「そうかしこまるな・・・我の標的はお主ではない。悪いが最後の一本は我が頂いた」

ズズズ・・・

その瞬間柱が切り崩され、屋敷が崩壊し始める。

「・・・!!!!」

為朝の意思に気付いた楓は、すぐに離脱しようとするも間に合わず、屋敷の崩壊に巻き込まれた。

「お主の様な大きな刃には、其処がお似合いぞ」

屋敷が崩壊する中、為朝は既に外に出ていた。

「鞘の中で眠れい・・・なまくら」

パチン

ズガアアアァァン!!

その言葉と共に太刀を納刀すると、屋敷は完全に崩壊した。



その後、後白河方の兵が白河北殿になだれ込み、混乱していた上皇方は呆気なく敗走し、崇徳上皇や頼長は御所を脱出して行方をくらました。

後白河方の将達は勝利に喜びながら帰っていき、白河北殿には、頼国ただ一人が残った。

そして日が昇り、頼国はガレキの山の上に座っていた。


「瓦礫の上で休憩とは、貴方もなかなか酔狂な男ですわね。・・・破壊神様」

「こんな所に何の用でィ・・・妖」

頼国は振り向かずに、後ろに居る妖怪に受け答えをする。

「消せろ。自分から死ぬ必要は無えだろうが」

「まあ怖い・・・じゃあ一言だけ。天狼衆にはお気を付けなさい。彼等は貴方達が思う以上に危険な集団よ」

「・・・何?」

「それじゃ、ご武運を♪」

「おい!!」

頼国が声を掛けた時には、既に妖怪の姿は消えていた。

「・・・何だって妖が、天狼衆の事を知ってるんでィ」



ドゴォォ!!

それから少し経つと、大きな音を立てて楓が飛び出してくる。

「おう・・・ピンピンしてるじゃねえか」

「負けたけどね」

口調を見ると、どうやら通常状態に戻ったようだ。

「戻るぞ。もう此処には要は無え」

「分かったわ」

頼国は楓を引き連れて帰路に着くが、先程妖怪が言った言葉が何度も頭をよぎっていた・・・


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あきゅろす。
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