小話(リボーン) 主従のプレゼント戦争(2012獄誕) ※雲雀さんアホです 明日、9月9日は獄寺隼人の誕生日である。 その前日夜9時に、僕雲雀恭弥は、僕らしくない程に焦っていた。 「…委員長、もうお時間がありませんが」 「黙ってて」 夜なのに無理矢理開けさせた学校の応接室に、草壁の心配そうな声が響く。 一蹴すると押し黙ったが、眉はハの字に垂れ下がったままだ。 何か言いたそうに口をぱくぱくさせながらも、僕に黙れと言われた以上何も言えないのか、無言で僕の後ろに立ち続けている。 僕ら以外には誰もいない、静かな学校。 椅子に座って、どうにか解決策を考えようと頭を動かすも、思考は停止したままだ。 何も解決しない。 それどころか、時間だけが寂しく過ぎていく。 僕は、静かに僕に従う草壁をちらりと見た。 やはり困った表情で、それでもどうにか笑顔を作ろうとしているような、そんな顔。 流石にさっきの一言は悪かったかと、少し思った。 草壁の心配が間違っていない事は、僕が一番分かっているからだ。 もう一度言おう。 明日、9月9日は獄寺隼人の誕生日である。 そして僕は、現時点で、 隼人へのプレゼントを、用意出来ていない。 「せっかくの隼人の誕生日なのに…」 「あの、委」 「ケーキなんて安直なものじゃなくて、もっとこう、バーンッと印象を与えるようなさ…」 「委員ち」 「いっそペアリングとかどうだろ!!隼人の着けるアクセサリーに合うのにしたら良いんじゃないかな!!うんそれが良いよどうして今まで気付かなかったんだろ、今開いてる店はあ」 「委員長!!」 我慢の限界とばかりに、怒気を含んだような草壁の声が部屋に響いた。 ぴたりと、僕の言葉が衝撃で止まる。 「委員長、ヤケを起こさないでください」 「………」 「どうして今までプレゼントが決まらなかったか、分からないわけではないですよね」 「………」 「アクセサリーを贈ると言い始めた途端、毎回ペアリングが良いだの、宝石の付いたネックレスだの、感情的に重たい物ばかり」 「………」 「花束は薔薇100本、むしろ家を用意すると言い出した時はどうしようかと思いましたよ」 「………」 「委員長、…貴方は色々と夢を持ちすぎています。これは大変言いにくい事ですが………」 「………」 草壁はそう捲し立て、最後に一つため息をついて。 もの凄く言いにくそうに、でも諦めた表情で言った。 「…現実を見て下さい。貴方はまだ、獄寺隼人とは付き合っていません」 「………っぐ」 草壁の言葉は、僕の心臓を貫いた。 全くもってその通り。 僕は隼人と付き合っていない。 完全な片思い。 それどころか、むしろ嫌わ…いや、これは寂しくなるからやめておこう。 「…だから、僕がどれだけ愛しているかを」 「想いを寄せていたり、好いている相手からならまだしも、普通恋人でもない、しかも同性からそんな物受け取ったら、引きますよ」 「………ぐおぉ」 今まで出した事の無い声が、僕の口から出た。 草壁の言葉は、僕の心臓を貫くだけでなく、完全に抉っていった。 「多分お菓子が妥当かと。沢田綱吉達と食べられるでしょう。嫌なら、せめて比較的安価のアクセサリーに止めてください」 「それじゃあ驚かせられない」 「貴方がプレゼントを用意した時点で、獄寺隼人は十分驚きます」 そう何度もお話ししましたよね? 努めて笑顔の草壁からは、確実に黒い何かが漏れだしている。 今まで何を言っても、何をやってもついてきてくれた彼だけに、その恐怖は想像を絶するものだった。 まさかここまで立場が逆転するとは。 …僕をここまで悩ます獄寺隼人、恐るべし。 「とりあえず、この時間はお店も閉まっていますし、委員長もお疲れでしょうから、もう帰りましょう」 「…わかった」 無理矢理笑顔を作る今の草壁からそう言われたら、断る事は不可能だと、本能で感じた。 本当は今日中に決めてしまいたかったが、確かに店も開いてない。 「もう少しマシで、重たくないプレゼントを考えてください」 「…努力する」 「明日、一緒に買いに行きましょう」 「…うん」 「もう一度言っておきますが、貴方がプレゼントを用意した時点で、獄寺隼人は十分驚きます」 「…わかった」 親に叱られた子供のようになりながら、僕は数回頷いた。 そして、帰路へとつき、草壁の言葉を反復した。 彼は本当に、僕からのプレゼントなら何でも喜ぶのだろうか(喜ぶ、ではなく驚く、です委員長) やっぱり薔薇の方が良いんじゃないだろうか(女性じゃあるまいし、相当重たいです委員長) 家…は早すぎたね。 きちんと同棲を決めてからが良いかな(色々おかしいです委員長) こういう時は原点に帰ろうか。 こういう時は自分が貰って嬉しいと思う物が良いと言うしね。 僕が隼人…恋人に貰って嬉しいプレゼントってなんだろう(良い線いってましたが、貴方は彼の恋人ではありませんから、それは成り立ちません委員長) 「……………!!」 僕は最高のプレゼントを思い付き、座っていた座布団の上に、まるでミサイルのような勢いで立ち上がった。 これならいける。 恋人に貰って、嬉しくないわけがない、とっておきの一品!! 時々草壁の声が聞こえた気がするが、これなら問題ないだろう!! にんまり、と顔の筋肉が弛むのを止められない。 僕は、人生で初めてじゃないかというほどテンション高く拳を振り上げた。 何故今まで気付かなかったのだろう。 過去の甘い考えだった自分に手を振り、明日の隼人の笑顔を想像する。 待っててね隼人。 しっかり準備してくから。 材料はあっただろうかと家の中を回る僕の脳裏に、今まで以上に僕を全力で止める草壁の声が聞こえるが… …まぁ、気のせいだろう。 翌日、私が朝7時に委員長のお宅を訪問するも、委員長はもうそこにはいませんでした。 「嫌な予感しかしない…」 行くあてはあそこしか無いと、確信があります。 委員長の恋は全力でバックアップしたいですが、間違ったやり方をする姿を止めるのも、きっと私の役目です。 どうにか獄寺隼人と接触する前に、委員長を探さねば。 私は急ぎ足で、獄寺隼人の家に向かいました。 獄寺隼人の家は、マンション最上階の一室。 エレベーターのボタンを押すと、どうやら最上階から戻ってきている模様。 部屋が少ない上に、まだ8時という時間も相まって、利用者は委員長しかいない気がします。 階段で上がろうかと思いましたが、多分委員長ならすぐにインターホンを押せていないでしょう。 予想通り、獄寺隼人の家の前でもじもじする委員長を発見する事が出来ました。 気恥ずかしさから、少しだけまごまごすると思っていたのは正解でした。 「委員長、昨日私と約束しましたよね?プレゼントは一緒に買いに行きましょうって」 近寄って問い詰めます。 いつもは想像も出来ないほどに慌てふためくかと思いましたが、委員長はいつもの笑み…どころか、花が咲かんばかりに笑われ、凛としておっしゃいました。 「あぁ、もうプレゼントを買う必要はなくなったんだよ」 「?」 「家にある物だけで、十分だった」 「はぁ」 家にある物だけで十分? 簡単な料理でもしたのでしょうか。 なんにせよ、委員長は家に宝石を置く趣味は無さそうですし、刀や掛軸のような骨董品を所持している様子はありません。 というより、…荷物が何も無く、いつも通りの姿と、全く同じな気がするのは、気のせいでしょうか。 「ほら草壁、下がって」 「あ、はい」 心の準備が出来たのか、インターホンを押そうと動く委員長に言われ移動するため、ほんの一瞬、視線をそらしました。 それがいけなかった。 ピンポン、と可愛らしい音がすると同時に頭を上げると、今まで胴体の影になっていて見えなかった左腕に、何かが付いているのが見えました。 ピンク色で、何重にも腕に巻かれ、ひらひらと先端が風になびくそれ。 「委員長、まさか」 気付いた時は既に遅く、眠そうな声と共にドアががちゃりと開いて、銀髪が覗きました。 「は?雲雀?」 もう止められない、止めたら殺されかねない、そんな状況を、ただただ見守るしか出来ません。 「隼人、誕生日おめでとう!!プレゼントに僕をあげるよ!!」 やっぱりいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいぃぃい!! 叫びこそしませんでしたが、一番マズイ事になったのでは、と思いました。 物を渡して拒否されるならまだしも、人間を拒否されたらどうするのかと。 しかも人間性から、何から否定されたりしたらどうするのか。 もし受け取ってもらえたとしても、サンドバッグ代わりだったらどうするのか。 色々な不安が入り交じり、時が止まったかのような空間で、思考だけが急速に動きます。 もちろん、動いたからといって意味はないのですが。 「………は、」 乾いた笑いなのか、驚きなのかなんなのか。 よく分からない声が、獄寺隼人の口から漏れ出しました。 これは色々な意味で死んだかと怯えながら、目が点のまま玄関に立つ獄寺隼人と、左腕にリボンをつけて両手を広げ、幸せそうな表情でこれからの幸福を信じきっている委員長を見つめ続けます。 が、そんな不安は杞憂に終わりました。 全く信じられなかったですが、本当に杞憂に終わったのです。 「……サン、キュ……し、仕方ねぇから貰ってやる」 「!!!!!!!!!!??????????」 「ホント!!!!??」 「お、おぅ」 頬を染める獄寺隼人は、どう考えても冗談を言っているようには見えず。 よく“ツンデレ”というものを耳にしますが、あぁ、これが人間の“デレ”る瞬間かと、静かに納得してしまいました。 「草壁も、来るか?」 「へ!?」 獄寺隼人の言葉に、委員長からふわりと殺気が漂いました。 今その誘いに乗ったら、多分死にます。 肉片一つ残りません。 「いえ、私は家の用事がありますので。獄寺さん、今日は本当にお誕生日おめでとうございます。雲雀さんと楽しい誕生日をお送りください」 早口に言いながら、じりじり下がっていきます。 「そうか?じゃ、気を付けて帰れよ」 「ありがとうございます」 怪訝な顔はしながら、ソワソワと委員長を見る獄寺隼人を生暖かく見つめつつ。 獄寺隼人を凝視している委員長へ、「頑張ってください」という伝わったか分からないアイコンタクトをしつつ。 私はただにこやかに、エレベーターに乗り、今までに無い速度で歩きながら帰路につきました。 並盛は今日も、そして今日という日が幸せに終われば明日以降も、平和です。 ++++++++++++ 長い間放置な上に、ぶっちゃけ間に合ったと言えない時間(現在22時58分)なんですが本気で土下座するんで許してください雲雀さ………グハァッ 久しぶりに文章書いたので非常にグダグダなんですが、おバカな雲雀さんと不憫な草壁さん書くの楽しかったです。 とにかくおめでとうごっきゅん!! お幸せに!!!!!! 20120909 [*前へ] |