小話(リボーン)
死なない約束(10年後雲獄)
『君が死んだら、その肉も血も、残さず僕が食べてあげるよ』
スーツのジャケットを着る俺に、受話器の向こうにいる雲雀は言った。
ただ、静かに、だけどとても強く。
「なんだよ、それ」
その言葉に、苦笑いしながらそう返す。
『君が毒殺されようが、刺されようが、バラバラに爆破されようが、溶かされようが。欠片一つ残さず、食べ尽くしてあげる』
そうすれば、自分の血肉として、俺は永遠に雲雀と共に生きるという。
「よくある話だな。理想論とでも言うのか?」
摂取したものはいずれ排泄されるのだから、永遠に共に、という希望は成り立たないと思うのだが。
『なんとでも言いなよ。食した僕が、君が永遠に僕の中にいると思えば、それが現実だ』
「お前らしいわがままな考えだな」
強情な雲雀に、今度はクスクス笑ってやる。
なんとなく怒っているような雰囲気が伝わってくるが、気にしない。
「でも、そんな事されても嬉しくねぇな」
毒で死んだ肉体には、何があるか分からない。
刺したナイフに仕込みが無いとも限らない。
バラバラ死体や溶けた死体の血を、地面を這って啜る姿は想像したくない。
元より、人間を溶かすような物質を、食べさせたくはない。
まぁどんな理由を並べようが、結論はこれである。
「そんな気持ちわりぃ事する雲雀は、死体になっても見たくない」
『……………』
俺の全面否定に、言葉は返って来なかった。
代わりに、そのまま俺が続ける。
「俺は、お前がもし死んでも、お前を食う事はしない。ただ、お前を“全て”土に埋めて、三日三晩泣いてやるよ」
どんな姿になろうと、必ず連れて帰ってやる。
全てを土に埋め、俺の生きる世界に還してやる。
そして、ボンゴレの右腕の多忙で貴重な三日間を、何もかも投げうって、十代目のお言葉も無視して、全部お前にやるよ。
きっと雲雀なら、これらの意味が分かっただろう。
笑った声が聞こえた。
『君が三日間も僕にくれるなんて、今までになかったね』
「そういやそうだな」
お互い忙しかったから、そんな時間なかった。
どちらかが暇になっても、もう片方は忙しい。
それの繰り返しで、会える時間なんて、ほんのわずかだった。
『でも、嬉しくはないかな』
「そうか?」
『せっかく貰った三日間、ずっと泣く君を見続けるなんて、無駄遣い以外の何物でもない』
「…そうか」
俺は目を細めた。
受話器越しなのに、雲雀に睨まれたような気がした。
アイツは悲しい時、それを隠すように俺を睨む。
その表情を見た気がした。
『それに、君に泣いてる姿は似合わない』
「…それ、男に言うセリフじゃねぇな」
『恋人には言うセリフじゃない?』
「ばーか」
またいつもの様子に戻った雲雀の軽口に、他愛もなく返す。
そして、会話は途切れた。
もう、時間だ。
最後がこんな会話だなんて、死神に首を狙われている俺達には、似合わないな。
『そろそろ、逢い引きを邪魔する無粋なやつを、咬み殺さなきゃね』
「そうだな。…じゃあな……………恭弥」
『…じゃあね、隼人』
プツン。
外の激しい音に掻き消されながら、通話は小さな音を立てて切れた。
リングを指にはめ、部屋を出る。
この時間を与えてくださった十代目に、加勢しなくては。
この世界の俺らは、危機に瀕していた。
全てのマフィアを潰し、世界に君臨せんとする組織の誕生。
バカみたいな目標を掲げるそいつらは、恐ろしいほどに強かった。
ボンゴレとその同盟以外のファミリーは、軒並み崩壊していった。
同盟を組むファミリー、キャバッローネ、ジッリョネロ、ミルフィオーレ、シモンもダメージはでかい。
ディーノと白蘭は痛手を負い、特に酷かったディーノ及びキャバッローネは戦線を離脱した。
白蘭はγと共に、アルコバレーノであるユニの保護を優先、敵から逃れている。
シモンはボンゴレと共に戦場にいるが、戦況は思わしくない。
ボンゴレ側は、まだ幼いランボがこれ以上戦えないだろう。
仲が良かったらうじがその補佐を務めてくれているが、限界である。
弱点を的確に突いてくる相手の前に、これ以上二人を出してはおけない。
それ以外の面々も、既に消耗戦を強いられている。
俺達がここまで苦戦する理由。
それは、敵が何の警告もなく、真っ先にアルコバレーノを潰しに来たからであった。
初めに襲撃をされたのは、コロネロとラルだった。
二人とも相当な手練れだが、敗北した。
次にリボーンさん、風、ヴェルデ、スカル。
戦闘力が高く、厄介な人物から潰しに来たような、そんな順番。
それが分かったからこそ、悲痛な予知によって心を痛めていたユニを、信頼するγと白蘭を護衛に早期に逃がした。
全員生きているが、戦う事は不可能である。
圧倒的な戦力が潰された事は、相手への恐怖を煽り、全体の士気も下げた。
最悪の状況、ギリギリの状態。
それでも、勝たなければならないのだ。
十代目を、仲間を、部下を、少しでも多くの人間を守るため。
そして、約束を守るため。
雲雀と交わした、死なない…否、死ねない約束を守るため。
また、生きて雲雀に会うため。
「十代目、ありがとうございました」
ドアの向こうは、瓦礫と炎が散乱した世界だった。
「オレにはこれしか出来ないから…」
十代目は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「十分です」
それに微笑み、匣を邂逅する。
さぁ、派手に暴れて、蹴散らしてやるのだ。
そして、ボロボロのくせにかっこつけるだろうアイツを、笑ってやるのだ。
「…全員果てな」
フレイムアローを向けながら、俺はにやりと笑った。
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状況説明文長いなーとか思いながらもそのままに。
完璧敗北フラグですが、このあと雲獄の愛の力が世界を救います。
新番組『ふたりはリボキュア』をお楽しみに!!
…雰囲気ブレイカーサーセン(´ω`)←
20120517
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