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星の物語-Novel-
心の対峙、己との対峙
武藤との電話のあと、俺がはいった組織の長、北条から連絡がはいった。
どうやって俺がここにいる事を知ったのかは知らないが、内容はこういうものだった。
『君の本当の姿を知りたいのなら、そばにいる彼女と共に以前組織を潰した倉庫まで来い』と。

何故神埼まで行かなきゃならないのかはわからない。
『沈黙の夜』だからなのか。
だとしたら連れて行くわけにはいかない。
敵をわざわざ連れて行ったところで、結果は見えている。
それは、『死』。
だが殺させる訳にはいかない。
もう『沈黙の夜』ではないのだから。
しかし神崎は、「自分が今までその人の周りの人を殺してしまったのなら、たとえ自分が殺されても文句は言えない。」とあきらめていた。

最早、行くしかないのだろう。

俺と神埼は倉庫へと向かった。





「たしかここだったな・・・。」
「ここで貴方が何十人も殺したの?」
「らしいな。正直あの時の事はよく覚えてない。」
「そう・・・。」
ゆっくりと倉庫の扉を開ける。
奥に座っていたのは、北条一人だった。
「久しぶりだね、加賀。元気そうでなによりだよ。」
微笑みながら、北条は挨拶をしてきた。
「とりあえず、こっちへきなよ。神崎・・いや、夜もね。」
やはり、神崎が夜だということを知っていた。
それよりも、何故『沈黙の夜』が『神崎千春』だと知っているのだろうか。
不思議な事は尽きない。
「それで、内容はいかがなものなんでしょうか、北条さん。」
「おや?大分前と変わったねぇ、加賀。」
「それを言うなら、貴方もでしょうが。何があったんだかは知りません。興味もない。今はらだ、ここに来た理由を言ってください。」
「せっかちだね。話はそうそう急いでも仕方ないんだよ。順を追って話そうじゃないか。とりあえずどこかに腰掛けたほうがいい。長くなるだろうからね。」
俺と神埼はそう言われ、近くのドラム缶やら、コンテナに座った。
「話を始める前に、確かめさせてもらおう。君が神埼千春、そして沈黙の夜、そうだね?」
「はい。そうです。」
北条に聞かれた神埼は小さく頷き、返事をした。
「そうか。大きくなったものだね。」
「・・?」
「いや、なんでもないよ。気にしないでくれ。それで、ここに来てもらった理由を話そう。本題というやつだね。」
「あまりもったいぶらずに教えてくれ。俺は武藤をなんとかしなきゃいけないんだ。」
「彼を・・?今の迷ってる君じゃ無理だよ。」
「そんなのはやってみないとわからないだろ?」
「無理だよ。君は彼の写し身みたいなものだからね。」
「・・・写し身?」
「そう。君と彼は、昔牢屋で知り合ったんだ。まず何故牢屋に入ったのか。君も武藤も濡れ衣同然で牢屋に入れられた。だが、君は濡れ衣でも武藤は濡れ衣ではないんだ。彼は立派な犯罪を起こしていた。殺人という名のね。」
「犯罪者、ね。そして俺は濡れ衣。その濡れ衣をきせられた理由は?」
「君は彼の共犯という名目で牢屋にいれられた。無論、君は殺人などしていないし、ごく普通の少年だった。だが、牢屋にいれられた君はそんな事も知らずに武藤と友人のように話していた。親の事、友達の事、色々とね。そして、話してる内にある言葉がでた。『脱獄』というね。結果、二人は脱獄することとなり、武藤は無事に、君は意識不明、そして記憶喪失で、という脱獄に終わった。だが、全ては武藤の計算通りで、君の記憶喪失も想定内だったんだろう。むしろ好都合だったのかもしれない。彼は君の記憶を全てつくりかえた。自分の代わりの殺人者として。そして、これからの世界を変える時の手駒の一つとして。結果、記憶を失っていた少年は立派な殺人者となり、表の世界には一切姿をだすことはなかった。そう、ある学校での殺人事件がおきるまでは。」
「殺人・・・事件・・・。」
ある学校の殺人事件という言葉に反応したのか、神崎が小さな声で復唱する。
「君も知っているだろう、加賀。神崎は勿論知っているだろうね。あの事件は、一人の男によって起こされた悲惨な事件だった。小早川という名の殺人者によって、ね。だが重要なのは、小早川は加害者であって、黒幕は別にあるということ。実際、小早川も被害者といえば被害者であって、真に悪いのは武藤なんだよ。」
「ちょっと待て。なんで小早川と武藤が関係してくる?」
「そこはあとで話す。・・話を戻そう。ここまでで覚えておいてほしいのは、君と武藤の経歴、小早川が被害者、ということ。次に話すのは、加賀。君が小さかった時の事、そして本来やるべきだったはずの事だ。」
「俺の・・・本来の・・・。」
「そう。まず、君は霊感が強かった。そのせいでよく人にも馬鹿にされていただろう。普通なら、幽霊なんて誰も信じやしないし、ましてやそれが見えるだなんて馬鹿にする対象にしかならないだろう。たとえ信じてる人間がいたとしても、本当に見えてる人間なんてのは語極少数だろう。いや、いないと言っても過言じゃないかもしれないね。だが君は見えていた。それもはっきりと。代々、君の家は霊関係の仕事をしたりする家系で、恐らく血筋なんだろう。君の父親も、無論その前もそうだった。でも、君の考えは親などが考えていたものとは違った。普通、幽霊等は祓ったりするのが君は霊だって話せばわかってくれる、だから助けてあげたい。そう言っていたそうだ。」
「言っていた?誰が?」
「それはこの際どうでもいいことだろう?」
「いや、よくない。誰が言っていたんだ?教えてくれ。」
「・・・君の父親だよ。」
「俺の父親・・・。今どうしてるんだ?」
「もう会うことは出来ないよ。死んでしまったからね。」
「死んだ・・のか。」
「正確には殺されたんだよ。武藤に殺人者と仕立て上げられた人間によって。」
「それってまさか・・・。」
「そう、さすが神埼千春。気づいたようだね。殺したのは、加賀。君なんだよ。」
「俺が・・・?自分の父親を・・・・?」
「そう。君の記憶には父親は別の人間であって、君が殺した本当の父親は別の人間。むしろ君の命を狙ってくる人間だと教え込まれたんだろう。」
「・・・。」

全てを受け入れるには正直無理がある。
幽霊?そんなのはありえない話だと思う。
だが、実際『早乙女祐』という人格を表に出したわけだし、いても不思議ではない。
むしろこの場合はいると思ったほうがいいだろう。
そして、何よりも受け入れたくはないのが自分の手で自分の親を殺したということ。

「どうしたんだい、加賀?考え込んでるようだけど。もし信じられないなら、帰ってもいいんだよ?」
「加賀さん?大丈夫・・?」
「あ、あぁ・・・大丈夫だ。続けてくれ。」
「そうかい?ならいいんだが・・・。とりあえず、続けよう。自分の父親を殺し、君は一時的に武藤の下から離れた。恐らく深層意識にあった本当の記憶が少しだけ思い出せたんだろう。いわゆるショック療法に近いものだろうけど。結果、君は錯乱状態に陥り武藤の手には負えなくなった。そして君は武藤の手から離れたわけだ。その先で君はある少年と出会うことになる。彼の名は、早乙女祐。二人ともよく知っているだろう?あの学校の事件で死んだ、早乙女祐本人だ。彼と気が合った君は新しい道を歩む事になった。しかし、人殺しをした自分が普通に暮らしていてはいけないとでも思ったんだろう。君は一人で行く当てもなくさまよった。そして、他人には見えない霊と共に生きてきた。普通なら高校に通う年齢になったとき、君は霊を助ける仕事をしていた。本来なら、これが君が続けるはずの仕事だった。だが、実際はどうだ?全ての元凶である一人の人間によって全てが狂わされた。そして今君はここにいる。自分を助けてくれた人間に恩を返すために。無論、その恩があるはずはなく、本人も知る由もない。そして今、この話を信じるのであればそれでよし。信じない場合は好きにするといい。」
「・・・俺はあんたが嘘をいうような人間だとは思わない。神崎千春を探していた時以外は。だから、これだけは先に答えてもらう。なんで黙っていたんだ?『沈黙の夜』が『神崎千春』だということを。」
「それは・・・。もし君に早乙女祐の意識があったら面倒なことでも起こりかねない。一応、私なりの配慮だったんだけども。」
「・・・配慮、ね。自分の手駒にしようとしてた、ってわけじゃないんだな?」
「それを信じるか信じないかは、君の考え次第じゃないかな?」
「・・・。まぁ、いいさ。嘘をつくならもっとマシな嘘をつくだろうしな。」
「信じてくれてなにより。」
「あの・・北条・・さん、でしたっけ。なんで小早川が被害者なんですか?」
「あぁ、そうか。祐くんすら知らない事を、君が知るわけもないね。いいだろう、わかる範囲だけど、教えよう。」
「お願いします。」
自分の友人を殺した犯人が何故被害者なのか気になるのだろう。神崎は真剣な顔をしていた。
「小早川は、父を権力者にもっていたことは知っているね?それは、武藤も同じだった。そして、武藤はゆくゆくは自分がその権力を持つ、あるいはもっと権力のある地位につくことを目的としていたようだ。そして、武藤が小早川と知り合ったのはインターネット上だと聞いている。ありえない話ではないし、その話が信憑性の高い人物から聞いたものだから、君たちに話すんだ。いいね?」
「はい。」
「・・・その人が誰だかはきになるが、まぁいい。」
「ちょっとひっかかるけど、続けよう。小早川は武藤、いやハンドルネームMader.Silent・・通称M.Sと知り合ったのは罪について考えるサイトだったそうだ。そこで彼、小早川とM.Sは同じような考えに至ったようで、意気投合したらしい。無論、顔を知っているわけではないし、名前も知らない。だが意気投合したということもあったのだろう。ハンドルネームを使った個人的付き合いはあったらしい。それがどういうものかはしらないが、M.Sと知り合ってからの小早川の精神状態はおかしかったそうだ。今まで人に優しく、まじめだった人間が物に当たり、人を罵倒し、仕事もロクにしなくなったらしい。周りはきっとストレスか何かだと思っていたのだろう。だが、その思い込みが結果的に早乙女春奈、祐のお姉さんを監禁する結果になった。それがどうなったのかは知ってるよね?」
「え・・・えぇ、知ってます。自殺・・したんですよね・・・。」
「そう、死んでしまった。」
「ちょっと待て。それじゃ何か?その小早川って奴がその早乙女春奈を結果的に殺した原因は武藤にあるっていうのか?」
「そう。武藤は、こう書き込みしていたこともあるそうだ。『人は人を殺してでも生きていかなきゃならないこともある。たとえそれが世間では罪と言われようと、それを罪と思わない人間もいるのも事実。世間にばれなければ罪と取られないのも事実』とね。ここから推測されるのは、武藤が小早川を一種の催眠状態にまでもっていったのではないか、ということ。そうすれば、小早川が錯乱状態に陥ったことも説明がつくだろう?」
「まぁ、確かに・・・。」
「・・・もしそうだったのだとしたら・・・」
「なんだい神崎さん?」
「もし、もしそうだったとしたら、ですよ?小早川先生を助けることはできたんでしょうか・・。」
「いや、それは無理だろうね。武藤がそんな簡単にとける催眠をかけるわけがない。自分の手駒にして、それを他人に簡単に渡すようなことはしないだろう。」
「・・まぁ、いいさ。俺は俺がどういう人間なのかわかった。それだけでいい。あとは・・・。」
「あとは?」
「あとは、俺自身で決着をつける。それだけだ。」
「そうだね。君は意外と熱い人間なようだ。その赤い髪のように。」
「赤・・・。そういえば・・・。」
「いや、神崎。聞かなくていい。それもまとめて、武藤に直接聞く。」
「武藤に会うつもりかい?何故?」
「話すとかそういうんじゃない。あんたが嘘をいってるとは思えない。だけど、もしあんたがいったことが全て真実だったとしたら、俺は武藤を許さない。だから、まずは会って聞きたいことを聞く。それでもしあんたが言っていた事が全て真実だったとしたら、その場で武藤を殺す。それだけだ。」
俺はそう言い、倉庫をあとにした。
「加賀・・・。」
「加賀さん・・・。」
二人に見送られるような形で、俺は武藤に会いに行った。

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