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田中勇馬。
1年生Dクラス。先日転入してきたらしい。
それが変な奴の正体だ。

僕が下した結論は、速やかに親衛隊員に行き渡ったようで、次の日には彼等によって変な奴の潰しが始まった。
とにかく苦痛を与え、精神と肉体を疲弊させてやる。
それが些細な事でも、下らない事でも、犯罪行為でも、結果的に変な奴を潰せるのならなんでもいい。手段は選ばない。

ところが、何をやっても変な奴は潰れない。
それは変な奴が強靭な肉体と精神を持っているからじゃなくて、彼氏を含めた生徒会役員が、変な奴を守っているからだった。

いったいどんな手段を使って生徒会の皆様に己を守らせてるのか分からないけど、それは変な奴が彼氏にとって危険人物である証だ。
あってはならない事だけど、生徒会の皆様は何か弱味を握られてしまっているのかもしれない。
僕はその事を相談しようと、放課後僕の親衛隊を集める事にした。


僕の親衛隊の幹部が集まる場所は、決まって剣道部の部室だ。

部室に入れば、体格の良い3人が迎えてくれた。
そのうちの2人は、剣道部員じゃなくて柔道部員と茶道部員だ。

「あー…見れば分かると思いますけど、例によって隊長は不在だからご勘弁を」

彼は副隊長の夏目くん。
夏目くんと不在の隊長さんは、共に剣道部員だ。
夏目くんはここにいるメンバー唯一の2年生で、後の2人は僕と同じ3年生。ちなみに、不在の隊長さんも3年生だ。

「そっか。お話聞きたかったけど、仕方ないよね」
「まあ例によって俺が代理しますんで」
「うん。いつもありがとう夏目くん。それから2人も」
「ぅぉ男なら!どんと背負い投げだあ!」
「落ち着け。久々の逢瀬に、微笑みの礼を頂いたとしても舞い上がるな。日々の鍛練を思い出せ柔道部主将」
「すまん!平常心を失っていた!」
「うむ。確かにこの茶がなければ俺も危なかったがな」

この2人の気持ちは良く分かる。
好きな人と対面すると、どうしても舞い上がっちゃうよね。

「なんせ本当に久々ですからね、こうやって会うの。まあ、そろそろ来る頃だとは思ってましたけど」
「うん。3人共予想してたかもしれないけど、ちょっと相談があるんだ」

田中勇馬の事で…そう続けようとした所で、夏目くんに「その前に」と言葉を遮られた。

「久々なんだから、もうちょっと野波ちゃんを堪能させてくださいよ」
「あ、そうだよね。最近悩み過ぎてて、僕なんだか焦ってたみたい」
「そういう時はほら、柔道部主将に可愛がってもらうのが一番ですよ。でしょ?大鹿さん」
「男なら!どんと来い!」

腕組をしたまま立ち上がった柔道部主将の大鹿くんがこっちへ来る。
その向こう側には、茶道部部長の鳴海くんが穏やかな顔で僕を見ている。

「野蛮な柔道男の次は、俺が野波さんの心を鎮めよう」
「そんで最後は俺が締めますから」
「う、うん」

夏目くんが愉快そうに僕を見て言うから、少し返事に困った。


僕は目の前まで来た大鹿くんの柔道着姿をしっかり見て、次に深呼吸をした。
それから大鹿くんの襟を力任せに掴むと…

「たあーーーー!」

鬱憤をぶつけるように大鹿くんを背負い投げた。
だん!と小気味良い音を鳴らして大鹿くんが受身をとる。

「そうだ!男はどんと背負い投げだ!」
「おす!」
「よし!もう一本来い!」
「おす!」

ここの剣道部部室は畳なのだ。
ちなみに、柔道部部室も弓道部部室も畳だ。

「はぁ、はぁ、はぁ」

何度か大鹿くんを背負い投げして、僕の息は切れ切れだ。

「大鹿くん…僕、もう…」
「よし!最後の一本だ!」
「おす!…たあーーーー!」

だん!と小気味良い音を鳴らして大鹿くんが最後の受身をとった。
僕はその大鹿くんの体の上に崩れるようにして上半身を預けた。

「はぁ、はぁ、はぁ、」
「どうだ!すっきりしたか野波さん!」
「はぁ、はぁ、…うん。ありがとう大鹿くん」

僕は大鹿くんの胸に顔を擦り寄せながら、上目遣いで大鹿くんの顔を見上げた。
こうすると大鹿くんが喜ぶ事を僕は知ってる。

「野波さん!うおおぉぉぉ!!」

大鹿くんが奇声を発しながら僕に抱き付いてきた。
それはもうすごい力で、体が軋む程だ。

「…ぃ"、ぃ"だ…ぃ"…」
「うおおぉぉぉぉ!好きだ!可愛い!うおおぉぉぉぉ!!」
「こらこら。野波ちゃんを殺す気ですか大鹿さん」

ぱちっぱちっと、夏目くんが大鹿くんの腕を竹刀で叩いている。

「落ち着け。嬉しいからといって舞い上がるな。日々の鍛練を思い出せ柔道部主将」
「すまん!あまりの可愛さに平常心を失っていた!」

平常心とやらを取り戻したらしい大鹿くんの腕の中から、やっと僕は解放された。





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あきゅろす。
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