小さなお話たち 傘 本日の天気は曇りのち雨です。 お出かけの際は必ず傘を持っていってください ・・・なんて、窓の外を眺めながら薄っぺらいテレビの向こうでキレーなお姉さんがそんなことをいってたのを思い出した。 「・・・傘持って来てねぇや」 ぼそりと呟いて溜め息を漏らす。 右手に握ったシャーペンを持ち直し黒板に書かれたさっぱり意味の分からねぇ数式を書き写す。 授業が終わるまであと約15分 HRを含めると約20分 現在は6時限目なわけで、俺が学校を出るまでにこの大雨が止むことはないだろう。 天気予報士という仕事は実は魔法使いとかそんなんじゃないのか? 朝家を出るとき、今空全体を覆う灰色の雲はその影すら無く 「天気予報なんて当たんないわな。この天気で傘なんていらないだろ」 と思っていたくらいだ。 だが実際はこの通り、天気予報士が告げた予言は見事に的中した訳だ。 勿論それが雲の流れとかなんとかから出したデータだっていうことは理解しているつもりだけど、俺みたいにそういうことに詳しくないやつからしたらさっぱり分かんないことで、時々魔法で天気を当てているんじゃないのかと思ってしまう。 ・・・小学生か俺は キーンコーン カーンコーン チャイムがなり、はげかかった数学教師に促されるまま学級委員が「起立、礼」といい、他の生徒たちが浅く礼をした。 帰る支度をしようと鞄にノートと筆記用具を詰めてると前の席の現在の持ち主である友人が体ごと振り向いてきて、 「なぁなぁ、傘持ってきてねぇの?」 と言ってきた。 「あ?なんで知ってんだよ」 と返すと 「はぁ?授業中に独り言言ってたじゃねぇか 傘持ってきてねぇって」 と言われて納得した。 誰にも聞こえていないと思っていたが前の席のこいつには聞こえていたらしい 「じゃあ隣の席にも聞こえてたのかな。・・・恥ずかしいやつだな俺」 「ははっ今頃気づいたのかよ」 軽く笑う友人に俺も軽く笑う。 なんてことない、いつもの光景。 [*前へ][次へ#] [戻る] |