03
「若葉ー。疲れた〜。」
「うーん…僕も疲れてるの〜。重たいよ〜。」
「若葉〜。」
あれからの“若葉”と“梓”の関係は非常に良いものとなっていた。
ホスト業は何かと疲れる。
常に酒を飲み、時には暴れ、色仕掛けの甘い言葉をこれでもかと吐く。
ホストとして新米である雅の癒やしは若葉ただ一人で、日常的に癒やしを求めて絡んでいた。
「若葉良い匂い〜。何で酒臭くねぇの?何で煙草臭くねぇの?何で良い匂いなの?」
「梓〜!重いよ〜!」
「何で〜!」
甘えるように乗っかってくる雅に、長知は内心ドキドキしていた。
『好きだな、好きだなぁ…雅君大好き…雅君の方が良い匂いするよ…、うぅ〜っ、』
口には出せない本心を心の内に留めて噛み締める。
このように、長知は本心を誤魔化すために神経を張り巡らせていた。
「梓〜、若葉が嫌がってるだろー。」
「何、嫌なの?」
「別に……良いよ。」
「良いってさ。若葉優しい〜。」
二人のやり取りを見かねた同僚が間に入ったものの、本心では花が咲いている長知には有り難迷惑ほかならなかった。
同僚の溜め息に内心ごめんと謝りつつ幸せに浸る。
長知は完全に雅だけをひたすらに愛していた。
「どうすっかなぁ…。」
「何が?」
「ホスト、いつまで続けようかなぁって。」
こんな関係になり早くも二年を越え、もうすぐ三年目に突入しようとしていた。
それは二人が26歳の頃である。
「辞めるの?」
「いや…俺、夢があってさ。いつか自分の店持ちたいんだ。こんなに派手じゃなくて、もうちょっと品のある感じの落ち着いた所。」
「っ…!」
長知は驚きで口元を押さえた。
雅が語った夢は、長知の夢と全く同じである。
いつかは自分の店を持ちたいという夢。
決して派手ではなく、品のある落ち着きのある場所…店のコンセプトまで似通っている。
余りの嬉しさに長知は自分の夢も語ろうとしたが、長知が叶えたい夢は普通のものではない。
ホストクラブでもただのバーでもなく、女装を趣味とする従業員を集めたお店を開きたいのだ。
同じ過ちを繰り返して今の幸せを失いたくない長知は、開きかけた口をキツく閉じて雅の話に耳を傾けた。
「これでも貯金してるんだぜ。」
「凄い…偉いね。」
「だろ?」
「うん…。」
二人はしばらく黙り込んだ。
その沈黙を、どこか緊張した面持ちで雅が破る。
次に発せられた言葉は、長知の将来を揺るがす非常に残酷なものだった。
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