労逸
いち
ガタンッ──!!
──……ピクッ…―
「―‥何だね? ハボック少尉」
忙しなく動かしていた万年筆を止め、音のした方へと顔を見ずに話し掛けた。
「! あ、いや」
扉に、潰されたカエルの様に張り付いていたハボック。酷く動揺した声色。
「悪いが…私は忙しいんだ。
用件は手短に頼もうか?」
そう話す間にも、書類に万年執を走らせサインを続ける。
「…その様で…」
ハボック少尉が近付いて来たかと、思ったら…
「…いったいなんの真似かね?」
「いや。大佐、熱でもあるのかと思って」
失礼にも程がある。いきなり近付いて来たと思ったら上司の額に手を当てるなど……。
眉間に不機嫌な皺を寄せ、睨み付ける。まあ、そんな事で怖じけづく男では無いが…。
「大佐が真面目に仕事する姿なんて滅多に拝めないッスから」
溜め息を吐き、万年筆をデスクに置くと、デスクの右側の一番上の引き出しを開け発火布の手袋を取り出す。
其れを素早く右手にはめるのを見た途端、ハボック少尉は焦り出した。
「ま……、待って下さいよ!! 大佐っ! 良い話ッスよっ!!」
手を自分の顔前でストップの仕草をしながら必死に訴える。
「…ほう…‥?
それで、良い話とは何だ?聞かせてみろ。
──…もし、つまらない話だったら……」
今にも指を弾きそうなポーズで言葉を待つ。
「今さっき大将から電話があったんスヨ!」
其処で一度話を切ると、私の反応を伺っているようだ。
「それで…?」
私がそれを聞いて、大喜びすると思っていたのだろうか。余りに私の反応が薄い為か、ハボックは少し不満気に話を続けた。
「で、今日、報告書を提出しに来ると連絡があったんスヨ!」
どうだっ!とでも言いたげな口ぶりで一気に話すと、ふんぞり反る少尉。
そんな少尉がおかしくて、顔を伏せふふっと短く笑うと、にっこりと作り笑いを浮かべる。
つられて少尉も、私の反応に満足気に笑顔を向けた。
徐に右手を上げ、……─パチン…と、指を鳴らす。指先からオレンジの火花が散った。
go on‥
[次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!