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労逸


 放たれた火花は、ハボックの顔の前でボッと小さな音を上げ焔と化す。

「……っ!?
──…ゲフッ! ゴホゴホッ……」

 銜えていたハボックの煙草に火をつけてやると、急に気管に流れ込んだ煙にむせる。

「残念だったな、ハボック。その情報はもう知っている」

 私がそう言うと、勢い良く咳込んだ為に涙目になった瞳で恨めしそうに此方を見る。

「…急に何すんですかっ!?」
「先程から邪魔だと行っているだろう?
さあ、ここは禁煙だ。」

 暗に、出て行けと最上級の笑顔で言ってやると、ハボックは深く溜め息を吐いた。

「……へいへい、わかりましたよ。邪魔者は失礼します」

 拗ねた様な口振りで、ひょいっと軽く両手を上げ、だらだらとした足取りで出て行こうとしたハボックは、扉に手を掛けた瞬間思い出した様に振り返った。

「あ、それ。
今日中にサインお願いします」
「それ?」
「さっき俺が置いた書類ですよ」
「これ……全部……か?」

 デスクの上には新たに加わった私の目線位の山。
 まさか…な。それを指差しながら苦笑いで尋ねる。

「全部ッス」

 にやりと小憎たらしい笑顔で答えるハボックを、今度は私が恨めしく睨んだ。

「んじゃ、宜しくお願いしますね」

 ハボックは逃げる様にさっと出て行った。扉の向こう側から軽い足取りが響く。

「………」

 やってやろうじゃないか……。
 沸々と込み上げる怒りにフルフルと奮え、フフフ……と堪える様に笑う。



 口許に笑みを帯、猛スピードでペンを走らせる姿はなんとも不気味で近寄り難く、その後、ロイに話し掛ける者は皆無だったと言う。



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あきゅろす。
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