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唯、一度──(MM配信中)


 サイドミラーに眼を遣れば、仲睦まじい二人の後ろ姿が写る。
 車の速度に併せ小さくなるふたつの人影は見えなくなる瞬間に重なり合った様だった。
 思わず腹立たしく自身の唇を噛んだ。

 フッと小さく自嘲の声を漏らし、次いで

「鋼のも所詮は子供か‥‥」

 負け惜しみの言葉を誰に言うでもなく溢す。

 ルームミラーに眼を遣れば、前だけを視て小さな溜め息を吐く中尉が写る。

「あまりからかうのはおよし下さい」

 彼女は私がからかう為に鋼のにちょかいを出していると思っているらしい。可笑しくて思わず鼻で笑って訊き返す。

「何故だね?」
「相手はまだ子供です。それをからかうなど、余りに大人気無い行為ではないかと」

 大人気無い……か。もっともだな。

 然し、中尉。君はひとつだけ勘違いをしている。

 私は鋼のをからかう為に近付いてるのでは……ないのだよ。

 まあ、無理もない。
 潔癖な君には思い付きもしないだろうな。
 同性を、しかもあんな少年を私が本気で欲している事など。


 必ず手に入れてみせよう。












「今日の夕方司令部に来なさい。鋼のに是非渡したい物がある」
『何だよ?』
「それは、来てからのお楽しみだよ。まあ期待は裏切らないさ」

 そう言って相手の返事を待たず受話器を置いた。
 彼は来るだろうか?




「何だよ。急に人を呼び出して」

 執務室に入るなり不機嫌そうに言い放つも、きちんと言われた通りに訪ねてくる律儀さに笑えた。と、言っても顔には出さなかったが。

 平静を装い、一番下の引き出しを開けある物を取り出し、

「これなんだが」

 勿体振って一言前置きすると机に置いた。
 鋼のはトレードマークの赤いコートに突っ込んでいた手を抜くと、それを手に取り不思議そうに首を傾げる。

「何だコレ?」


‥next

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