唯、一度──(MM配信中)
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「ホークアイ中尉。すまんが、停めてくれ」
運転している彼女に頼むと、ルームミラーから視線を一度合わせ歩道に幅寄せし、車を停める。
「どちらへ」
「直ぐに戻る」
出先で私は意外な人物を発見し、声を掛けた。
「や。鋼のじゃないか」
小さいわりによく目立つのは派手な姿の所為か。
「げ。大佐」
私を視るとあからさまに嫌そうな顔付きをする鋼のの態度にはもう馴れた。
然し、秘かに彼に一度試してみたい事がある。
それは、私が君を名で呼んだらどんな顔をするんだろう。という小さな興味の答えを埋める事。
──‥呼んでみようか。
「エド」
その声にさらりと髪を靡かせ顔を上げる。
「ウィンリィ、どうして此処に」
「来てたのか、じゃないわよ。アルにセントラルに来てるって訊いたから。あんたはどうせ機械鎧の手入れもせずにいるだろうと思ってわざわざ来てあげたんでしょう」
ウィンリィ嬢。
鋼のの故郷に住む、機械鎧技師。
本人に確かめてはいないが、恐らく恋人。
「あ、マスタング大佐さん。お久し振りです」
ずっとふたりを眺めていた私に気付き、ウィンリィ嬢が声を掛けてきた。
「やぁ、相変わらず美しい。鋼のには勿体ないな」
挨拶の序でにさらりと誉めれば、照れながら否定するウィンリィ嬢の背後で此方を不機嫌に睨みつける鋼のの姿。
からかいがいのあるヤツだ。
初めはそこまでするつもりはなかったが、ウィンリィ嬢の手を取り甲に軽く口付けた。
ウィンリィ嬢は驚いて固まっている。
「何しやがるっ!! こんの変態佐!!!」
ベリッと音がしそうな程勢いよくウィンリィ嬢を私の元より引き剥がし、自分の方に引き寄せ怒鳴りつける。
湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にして怒る鋼のが可笑しくて、鼻で笑ってしまう。
「只の挨拶だろう」
「うっせぇ!! 金輪際ウィンリィに近付くなっ!!」
凄い剣幕でわめく彼に嫌味のひとつも返そうと思ったが、
「大佐、そろそろお戻り下さい」
「あぁ、今戻る。
じゃあな、鋼の。もう少し余裕を持たねば彼女に逃げられてしまうぞ」
中尉の声に阻止され、それだけ言うと車に戻った。
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