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878.雨の向こう側で


 あまりに予想外な答えに、思わず頬が引き攣る。厄介な事に首を突っ込んでしまった気がする。

「ご両親はいるのかい?」

 どうかいると言ってくれ。
 そうしたらこの子を送り届ければ良い。それだけの話だ。

「……母さん……は……」

 ゴクリと咽を鳴らしゆっくりと話す少年の答えを、待つ。


「……死んじゃった……」


「亡くなったって……、それじゃあ、君はストリートボーイなのか?」

 思わず荒いだ声を出してしまい、右手で口を塞ぐ。


「ストリートボーイ??」

 少年は言葉の意味が理解出来ないらしく、首を傾げた。

「……」

 不安そうに見つめられ、コホンとひとつ咳払いをすると、平静を装い質問を変える。

「名前は?」

 一度、瞳を揺らめかせ迷う様な仕草をする。

「……エドワード」

「ファミリーネームは?」

 そう尋ねると、エドワードは黙って俯いてしまった。
 下に流れた髪から、ぽたぽたと雫が滴る。
 どのくらいここに居たのだろうか?
 エドワードの全身は、水から上がって来たかの様に濡れている事に今更ながら気付く。
 所々泥やなにかで汚れた、白だったであろう薄手のシャツは濡れて、エドワードの白い肌が透けていた。
 こんな薄着で、こんな所に雨に打たれ、ずっと独り、蹲っていたのか?



 暫し考えた末、俯いたままの少年に声を掛けた。

「そんな格好でこんな所に居たら風邪を引く。
取り敢えず、……家に来るか?」

 はっと顔を上げたエドワードは、驚愕したと言わんばかりに目を見開いた。



 君は……、いつからここに居て、いったい何を感じたんだ?

 戦慄く体を必死で隠す様に、自分の肩を抱く。

 幼い、少年。
 独りで生きるには、"ソコ"は、どんなんだ?

 君は、何を怯えているんだ?

 何を恐れている?



「嫌なら来なくても良い。

――君が、自分で選ぶんだ」


 小さな子供に選択を預けた私は、残酷だろうか―――?


 エドワードに手を伸ばすと、戸惑いながら小さな手を重ねる。


 ―――触れた手を握った途端、金の瞳から、涙が溢れた。







 ――あの日 君は何を想い 泣いたのだろう?


  私には 解らないんだ――



   ……エド――……


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