878.雨の向こう側で
12
「……そんなところで何してるんだ?」
オレは何もこたえられなくて、ううん、こたえないのはいつもだけど、体で絵を隠し最後の悪足掻きをする。
「昼はどうする?」
何も知らないロイは喋り続ける。昔、絵本で読んだ魔法使いの話。オレにも魔法が使えたなら、気付かれないうちになおしてしまえるのに……!
ブンブンと慌てて、首を横に振る。ここから離れられない。
「――? どうした?」
オレの不自然な態度で、ロイの口調が怖いくらいに変わって……一歩、一歩、静かに近付いてきた……。
「──!?」
ロイは、何かに気付いて絵の前からオレを押し離した。
「……な……?」
叩かれるっ!!
反射的に体を硬くし身構えた。
……?
だけど、ロイはそれ以上何も言わなくて、ただ、オレの肩を力一杯つかむ手だけが……わなわなと震えていた……。
「ごめ……、ごめんなさ……!」
「……っ! ――謝って済むものかっ!! これは――!!!」
声は、荒々しくて……本気で怒らせたことがわかる。
それ以上何も言えなかった。
「……なんて事をしてくれたんだ……!」
ロイはめちゃくちゃ怒った低い声で唸る……、視線は切り裂かれた絵を睨み。掌は拳を作りわなわなと震えていた。
自分のしでかした事の重大さを改めて実感した。背中にヒンヤリと気持ちの悪い汗が流れた。
咽はカラカラで声も出せない。焼けるような痛みで、呼吸する事すら苦しい。
「何故こんな事をした!?」
――……ガッ――!!
裂けんばかりに怒鳴りつけられ、怯んだ瞬間襟首を掴まれた。
その力に逆らえず、つま先立ちになる。
「っ……!」
ロイにとって大切な物だと知っているからこそ、声が出ない。
謝るしかない。いや、謝る事しか出来ない。
そう思えば思う程 声が出ない。
「――頭を冷やしてくる」
短かい言い捨てるみたいな言葉に、『もう消えてくれ』そんな暗号が隠されているような気がして……泣きたくなった。
でも、グッと体に力をいれて涙がこぼれないように頑張った。だって、ここでオレが泣くのは卑怯だ……。
泣きたいのは、ロイの方。
答えられず、俯いている間にロイは足早に今歩いてきたばかりの廊下を後戻りした。
オレは……ただ、その姿を見つめるだけ……。
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