878.雨の向こう側で
10
「そんな難しい本を読んで解るのか?」
食事をし終えると、男はまた絵を書き始めて、オレはソファで本を読んでいた。
気が付くと、男は後ろに立っていて驚いてしまった。
男は気にせず言葉を続けた。
「エドワードもう遅い。
そのベッドを使って良いから、そろそろ寝なさい」
指差す方を見ると確かにベッドはある。けど……、多分この家にはベッドはひとつしかないはず。
オレは、フルフルと横に首を振った。
「何故だね? 早く寝ないと大きくなれんよ?」
オレの遠慮が伝わらず、『まだ寝たくない』と取ったらしい男のひとは、ムッとした顔で読み掛けの本を奪った。
「……アンタの……寝……」
「"アンタ"?」
言い掛けた言葉を遮り、不機嫌な声がすぐさま返ってきた。
だってオレ、アンタの名前知らないし。
「……名前……、聞いてない……」
そういうと、男は片手を口に持っていき『しまった』って顔になった。……忘れてたんだ?
「――〜〜っ、ロイ。
ロイ・マスタングだ……」
あんまり気不味そうに言うから、思わず吹き出しそうになったのを必死で我慢してきき直す。
「……ロイはどこで寝るの……?」
「……」
そう言ったら、ロイはなぜかオレを黙って見詰めた。
「……子供は遠慮などしなくて良いんだ」
それに私はまだ寝ないから心配するな。ロイは続けた。
ロイが見てるのはやっぱり絵。
「……解ったら寝なさい」
邪魔なんだ。そう思い、頷くと立ち上がりロイに見送られベッドに入る。
ロイの匂いがする。
そう思った途端、部屋の電気が落とされた。
「おやすみ」
すぐに扉を閉じられ、『おやすみ』が言えなかった。
「……おやすみなさい……」
小さく、声に出す。
おやすみなんて、ずっと言ってなかった。
明日も、ここに居ても良い?
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