878.雨の向こう側で
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雨の向こう側で
「ダメだ……っ」
絵画コンクールの〆切まで既に一週間を切っていた。
このコンクールにロイはこれからの人生の総てを賭ていた。
ロイは絵描きだ。
学生の頃、教師や先輩、同級生らに、とても素晴らしいと絶讚されていたし、ロイも、自分の腕にかなりの自信を持っていた。
しかし、社会に出れば、世間がいかに厳しいか、その身をもって知ることとなった。
要するに、名も知られていないロイの絵は、全くと言ってよい程売れなかった。
金持ちのパトロンでもいれば話は別だが、ロイは人に頼る事に酷く抵抗感を持っていた為、何度か援助したいとの申し出はあったものの、その度ロイは断りをいれていた。
才能はあっても生活は常に苦しく、軍警察に勤める友人から仕事を貰っては一日一日を食い繋ぐ。そんな生活を送っていた。
「ロイ、調子はどうだ?」
「やあ、ヒューズ。見ての通りだ」
参ったよ。そう言ったロイは苦笑いを洩らすと、両手を軽く上げ、お手上げのポーズをして見せた。
ヒューズが何の前触れもなくロイの部屋を訪ねるのはいつもの事だ。
ヒューズがここを訪ねてくるようになってからもう八年。
以前は、その度不満気にしていたロイも、すっかり慣れた様子で、まるで、今までずっと側に居たかのようだ。
背後に立ち、前屈みになると、ヒューズは制作途中の絵ではなく、ロイの顔を覘き込む。
「……ちゃんと喰ってんのか? 顔色が悪い」
ヒューズの言葉通り、ロイの顔は青白く、ここ何日で急激に憔れているのが判る。
「心配御無用。絵を描く時はいつもそうだ」
ロイの答えに、ヒューズは呆れたと言わんばかりの溜め息を吐く。
「例の話、考えといてくれたか? 上の連中にも偉く気に入って貰えてるし……、お前だって、いつまでもこんな事してられないだろ?」
「……解ってる。
今回のコンクールで入賞出来なければ、きっぱり諦めるさ」
「……、そうか……」
ヒューズはロイの言葉に複雑そうに頷く。
ロイの一番の理解者であり、誰よりもロイの成功を願っていたのは紛れもなくヒューズだ。
だからこそ、ヒューズは新たな道を提示した。
憔悴してゆく親友を見ていられず、夢を捨てろと、言ったのだ。
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