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これは愛だよ?



 結局俺は終始久礼の言葉に反応することなく「嘉一、嘉一」と、うるさく名を呼ぶ久礼をじっと見ていた。


 そして向かえる1時間目、久礼はひどく青い顔をしたまま授業を受けていた。

 何かをするわけでもなく終わった1限目。
 そして訪れた10分休み。目の前には久礼が立っていた。

 「嘉一...」


 「...」


 「嘉一、お願い...無視しないでよ、」


 机に蹲ったまま顔だけを久礼に向けていた。
 その時、悲痛な声とともに目の前に落ちてきた...一粒の涙。


 「...久礼」


 「嘉一...嘉一...」

 周りの目も気にせず、ポツリポツリと涙を流す久礼。机の上に落ちる涙の粒たち。

 「...」

 「う、ぁ...嘉一、」

 気がつけば俺は久礼の腕を掴み教室を出ていた。
 ようやく俺が反応したことが嬉しいのか、「嘉一、嘉一」と、さっきまでとは違う明るい口調で俺の名前を呼び、
大人しく俺に腕を引かれて歩いていた。

 俺の足が止まったのは屋上へ向かう階段を少しのぼった辺りだった。

 「...何、泣いてんの、」

 俺自身、驚いていた。今まで泣きそうな顔をすることはあったが、実際に泣かれたことはなかったからだ。


 「嘉一、ごめん、ごめんね...好きだから、俺の一番は嘉一だから、」


 「話噛みあってない」


 ギュッと俺を前から抱き締め、肩に顔をうずめる久礼はまるで小さな子供のように思えた。

 「...なんで謝るの、」

 なんで、なんてわかりきってるのに俺は冷たくそう投げつけ、抱きつく久礼の体をおしどける。


 「...俺が...俺がまた前と同じことしたから...そうでしょ、見たんでしょ...だから嘉一は俺に冷たいんでしょ」


 「...わかってんじゃん」


 「でも!でも、違うんだ!好きで抱いてるんじゃないよ!だって、俺が心から必要としているのは...大好きなのは、嘉一だけだからっ」


 「...そんなことは前も聞いた。俺はもうお前を信用できない」

 同じような言葉を並べて必死に弁解するその姿はとても滑稽だった。

 「嫌だ...お願い捨てないで...っ、俺を捨てないで!」

 冷たい視線のままそう言えば、途端久礼は顔を歪め再び涙を流し始めた。

 「ごめん、もうしないから。だから、俺を捨てないでっ、嘉一、好きなんだよ。嘉一が好きなんだよ...っ」

 そして崩れ落ちるようにしてしゃがみ込み、床に涙の跡を作っていく。

 「嘘吐きなお前の言葉を信じれって言うの?いっそのこと別れる?」

 「...っ、嫌だっ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ、俺が悪かったよ、もう嘘もつかない。お願い信じて、別れるなんて言わないで。そんなこと言わないで...っ」

 格好なんか気にしてられないのか久礼は涙を流したまま俺の腰にしがみつき、嗚咽を含ませながら必死に俺に縋ってきた。

 「...はははッ、ひどい姿。そんなに俺のことが好き?俺と別れるのが嫌?」

 そう問えば、叫ぶように久礼は「好きだ」、「別れたくない」と、何度も何度も俺に言ってきた。

 「...久礼、お前は可愛いね。いいよ、許してあげる」


 「嘉一っ」


 腰に絡みつく久礼の手を解き俺もしゃがむとギュッと強く抱きついた。

 「俺も久礼が好きだ」


 「嘉一、嘉一、嘉一...っ」


 久礼は俺の背に手を回し同じく俺を抱きしめると唇を重ねてきた。

 俺の名前を呼びながら深く...深く舌を入れた、息もできないほどの激しいキスをした。


 愛しい久礼。ここまでプライドを捨てて泣き叫ぶ久礼が一層愛しく感じた。


 俺も久礼を愛しているよ。だけど、それは永久のものではない。
もう浮気なんてしないでね。


 じゃないと....


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あきゅろす。
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