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それは幸福
本心※誠太視点


 目の前が真っ暗だった。指先をピクリとも動かせず誠太は俯いたまま虚空をみつめる。
目を逸らし続けていた現実を突きつけられ、何も考えられなくなる。

 「わかりきってたことなのに、どうしてそんなに落ち込むの」

 いつの間にか、向かいからかけられる声は冷たい、辛辣な男の声ではなく小さい頃から聞き慣れていた声に変わっていた。

 「誠太も今の春臣に会うのはタイミングが悪いってもんさ。いつにも増してキツイのなんのって」

 顔をあげれば頬杖をついてこちらをみる千晶の姿があった。千晶は誠太を窺い見て「まぁ、元気だしなよ。良い話があるから」と、春臣が残していったまだ温かい珈琲を一口飲みスマホを目の前に出してきた。

 ぼんやりとそれを見れば、珈琲を飲む春臣とそんな春臣を真っ直ぐにみつめる自分が写っていた。まさについ先程ここで撮られたものだ。

 「...一体、いつの間に撮ってたんだ。お前に連絡してまだそんなに経ってないのに」

 「実は誠太の後をつけてたんだよね。誠太が俺に連絡くれた時には俺も近くの席に座ってたんだ。2人とも余裕がないのか全く気がついてなかったけど。どう、この写真よく撮れてるでしょ。春臣フード被ってたから中々顔写すの大変だったんだから」

 千晶は、ふふっと笑い春臣の顔を拡大して眺める。それを見て誠太は千晶が何の話をしようとしているのかがすぐにわかった。

 「俺は、春臣君が大切で...だから守りたかったんだ。そして俺はそのすぐそばで支えられるだけで、それだけでよかったんだ」

 「わかってるよ。だから俺の計画にも降りたんだもんね。...でも、今は?今は、違うよね...誠太」

 千晶は誠太の思考を絡め取り把握しているのか笑みはどんどんと深まっていく。

 「この写真があれば春臣は何でもいうことを聞くよ。もちろん、それはお前の行動次第だけどね」

 千晶の、悪魔のような囁きが誠太の脳髄まで染み渡る。もうどうやったって春臣が自分に振り向いてくれないのはわかりきったことだった。それでも諦められない恋慕、執着。それを叶える方法は1つしかなかった。

 「お前が後々、組の跡を継げば晴れてお前の家の離れで春臣を飼うことができるんだよ。俺があいつを堕としてお前が囲う。飼い主は俺とお前だ。遊び相手になるのはあいつの番だよ」

 感情の読めない千晶の瞳。それはずっと前から練られていた計画。

 −そんな、春臣君のことを縛りつけるなんて...そんなこと、

 春臣がどれだけ俳優としての仕事を大切にし、生きがいとしていたのかを誠太はわかっていた。だから、生まれ始めた欲望を良心がなんとか咎めようとするが。

 「春臣のこと、犯したいんだろう」

 千晶はただ笑んだままこちらを見ていた。無駄な葛藤なんてやめてしまえばいい、と嘲笑うかのように。

 −俺は...俺は春臣君を守って...

 「滅茶苦茶に犯してあげたい」

 そうして、誠太はニヒルに笑った。



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