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それは幸福
習慣※千晶視点


 喫茶店を出て家に戻ると深夜の時間帯ではあったが京太はスーツを着たまま落ち着きなく部屋の中を歩いていた。その手にはいつ連絡が来てもいいようにと携帯が握られている。
 父親である京太は千晶と同じように春臣のことも大切にしていた。そんな春臣が連絡もつかず帰っても来ないため心配で何も手がつかないのであろうことは見てわかった。

 「街中で春臣と会ったよ。見た感じ酔い潰れてないし遊び回ってるわけでもないし何も問題は起こさなさそうだったよ。寧ろ問題を起こして俳優として立てなくなった方が春臣としては致命傷だろうしね。ほとぼりが冷めたらそのうち帰ってくるんじゃない」

 気休めではあるがそういえば京太は「まぁね」と溜息をして肩を落とした。

 「とりあえず千晶はこれ以上春臣にケンカは売らないこと。春臣も主役降板だなんて初めてのことだし、プライドを持って仕事をしてる訳だから...」

 「はいはい、わかってるって。触らぬ神に祟りなしってね」

 −なーんて、やめるわけないじゃん。今が楽しい時なのに。

 千晶は心の中で舌を出す。今後のことを考えればワクワクが止まらなかった。

 「そういえば、控え室にこれが落ちてたんだけど千晶のものかな?」

 ふと、京太はスーツのポケットに入っているメモ帳を千晶の目の前に出した。それを見た千晶は一瞬ギクリと固まるが、すぐに平常心を意識して笑った。

 「あぁ、ありがとう。春臣に突き飛ばされた時にでも鞄から落ちたのかな。あとで使うつもりだったからなくなったことに気がつかなかったよ」

 「それなら拾っておいてよかったよ。それにしても、これは一体いつのドラマの時のだ?セリフだけが書かれているが...。まぁ、何にせよ千晶がここまで俳優の仕事に意欲を見せてくれて嬉しいよ。セリフの覚え方も人それぞれ違うしな」

 何十ページにもわたってセリフのみがかかれているメモ帳を見て京太は不思議そうに首を傾げるがそれ以上深く考えずに千晶に手渡した。

 そんな千晶は受け取ったメモ帳を大事に鞄の中へとしまった。

 −あぁ、危ない。このメモの意味がバレてしまえば計画も全てうまくいかなくなるところだった。

 それはある人物との今までの会話を全部メモしたものだった。そんな、異常だと自覚している悪癖は中学からやめられず、今も続いている。もちろん、この後書こうと思っていたのは控え室での言い争う内容のもの。

 −ねぇ、春臣。あんたのせいで俺はおかしくなってるんだよ。

 千晶は春臣を主役の座から蹴り落とした時のことを思い出して笑んだ。あの絶望した顔がたまらなく下半身にゾクゾクとした刺激を与えた。

 俳優の仕事など好きでやったわけではない。千晶にとってはあくまでも通過点の1つでしかなかった。



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