人形姫(一)
雨のせいで、バスの窓硝子が白く曇っている。
寒さで睡魔が襲う。
その度に、僕は窓硝子に当たる雨音で起こされた。
それにしても、バスの中は異様に寒い。雨のせいだろうか。まだ、十月だというのに。……いや、十月だっただろうか。一瞬、そんな事を思った。いくら考えてみても、その根拠が見当たらない。僕は不安を感じて鞄の中から手帳を取り出した。けれど、何度もその端から端までめくってみても、何も分からなかった。
『寒い』
バスの中は薄暗く、何故か乗客の顔をみることは出来なかった。けれど、僕が『寒い』と口にした瞬間、乗客たちの空気が異様なものに変わった。まるで、可笑しなものを見るように、理解することが出来ないものを眺めるような視線を確かに感じる。
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