■「あら、お婆様どうしたんですの、その紙?」 笹目がそういうとお婆様は険しい顔で見つめていたその紙を手渡してきた。 「目があんまりよぐねぇがらよく見えんのだがのぅ。連絡先をもらったんだい」 そう言ってお婆様は次に嬉しそうな顔でこちらを覗く。 「アラ、これ2年の佐々木君の連絡先じゃないですか」 笹目は普通課3年。 ダブリで2度目の”二年”になった彼とは一応面識がある。 その彼がよくお婆様の畑を手伝いに来てくださっているのは暫く前から聞いていた。 その彼が今日また茶菓子を持って現れてそれを渡してくれたという。 「・・・な、笹目。こんな年でもおどごのごからこんなもん頂くと嬉しいべ?」 そう言ってお婆様はにこにこと笹目を見つめる。 「これは笹目、お前にやる」 「え・・・?」 嬉しそうにしていたお婆様が今度はそれを私にやると言って来たのだ 「でも・・お婆様。これはお婆様のもらったものでは・・・?」 笹目がそういうとお婆様はまた目を細めて行って来た。 「こんな好青年。滅多にいねぇべ。・・・・・わだすは携帯なんてもんはもってねぇだすから笹目が使うのが一番いい。」 (※ちなみにお婆様はずっと”笹目”と呼んでいるが別の姓を名乗っております。 たまに和美と呼ばれますがいつもは笹目と呼んでおります。※) 「でもお婆様・・・・・」笹目はそう思いながらもその紙を見つめると携帯を手に取った。 いつも自分の祖母がお世話になっている”お礼”を言いたかったのだ。 「じゃぁお婆様、かけますね?」 笹目はそう言うと「んだんだ」とお婆様は嬉しそうに首を振った。 ・・・・・・・・・・ 暫しの呼び出し音の後佐々木君と思われる声が聞こえてきた。 「あの・・・いつも・・・祖母がお世話になっている・・・・・桜聖学院3年の笹目和美ですが・・・・・」 笹目はそう挨拶すると時折お婆様の畑の手伝いをしてくれるお礼を丁寧に述べた。 それから・・・・・・ 「二度目の2年の”学生生活”楽しんでくださいね・・・・」 とそう伝える。 皮肉ではない。自分は3年。春になって新しい出会いが色々現れたその中で。”卒業”をしなくてはいけない学年。・・・できれば自分もこのまま留年していしまいたい・・・・そんな事を時折思うほど新たに出来た友人関係は幸せで仕方が無い。 そんな中で自由奔放に笹目から見える彼は少し憧れを抱くものがあった。 それが最後のその言葉につながったのだ。 彼の返事は淡々としていたものだが男性らしい低い声に力強い何かを感じるような声であった。 笹目はそれを聞きながら佐々木君の姿を思い浮かべる。 本当に好青年だと思う。彼女にはそう見えるのだ。 「本当に、今日は有難うございました。」 笹目はそう言って電話を切る。 お礼はいつもお婆様が何かしら畑の野菜を渡しているというが自分の方からも何かしらお礼が言いたかったのだ。 お婆様の狙うような変な意味ではないが笹目は佐々木君の声を久しぶりに聞くことが出来て嬉しかった。 そんなある日の出来事であった。 ■END■ [*前へ][次へ#] [戻る] |