06 部屋を出てから視線が鬱陶しい。 隣に視線を向けると、あからさまに訝しげな顔の会長と目が合う。 せめて視線を反らすぐらいしてほしい。 「何か」 「お前、本当に俺と初対面か?」 「……ええ。現に互いの名前も知らなかった分けですし」 本当は一方的に知っていたが、言う必要はない。 というか、本当に「俺」だと思っているのだろうか。変装しているのに。 「……。あれは?」 「あ?ああ、図書館だ」 「……図書館?あれが?」 気を反らそうと目の前に現れた(案の定無駄な装飾だらけの)建物について質問すると、予想外の答えが返ってきた。 「図書館、て、あれがか?本当に?何階建てなんだ?蔵書数は?一度に何冊何日間借りれる?」 反射的に頭に浮かんだ質問を列挙して、すぐに口をつぐんだ。 しまった。思わず興奮して敬語が取れた。 そっと相手を伺うと、ひどく驚いた顔をしている。 「あ……悪い……じゃない、すみません」 「いや……」 謝ると、何故か逆にまじまじと見つめ返された。 「今興奮してたのか?表情変わんねぇのに興奮して目キラキラさせるのって、漫画だけだと思ってたけどマジでいるんだな」 きくな。振るな。恥ずかしい。 そして微妙に笑ってるのが腹立つ。 「ま、図書館行けば細かく教えてもらえるから、行ってきけ」 「はい」 「そんで図書館の隣の建物。あれが、」 言われた方を見る。 「……ラブホ?」 「んなもん学校にねぇよ。あれは寮だ」 「寮……」 あの帝国風の建物が?理事長室のあった何とか棟(名前は忘れた)並に派手な装飾のされたあの建物が? というか、山の中にこんな建物があったら普通ラブホだと思うと思う。違うのか。 「中に入ってすぐにカウンターがある。そこで説明受けろ。俺はもう行く」 「案内ありがとうございました」 なんだかほとんど説明されてない気もするが、とりあえず礼は言っておく。 そのまま寮の中に入ろうとすると、 「おい、」 呼び止められた。 行くとか行けとか言ったり、かと思えば呼び止めてみたり、面倒なやつだ。 「何か」 「お前、俺に媚びうらないのか?」 「……?」 意味がわからない。まったくわからない。 首を傾けると、会長はわずかに目を細めた。 <<>> [戻る] |