05
「それじゃあ黒渦君、香黒君の案内よろしくね。ここから寮までで十分だよ。校舎は大丈夫だろうから」
「わかりました」
「理事長、失礼します」
「うん。……香黒君、」
「はい」
「何かあったら言ってね?何でも協力するよ」
「……ありがとうございます」
一礼して扉に向かう。
(気のせいじゃなければ寂し気な)仁さんの視線を背中に受けながら、俺は理事長室を後にした。
*****
「行っちゃったなあ……」
独り言が虚しく部屋に響いた。
仁は、先程まで部屋にいた義理の甥――香黒のことを考えていた。
科学者だった両親を亡くし、唯一の生き残りである妹すら行方不明。
そんな彼がこの学校に来た理由はただ一つ。
彼の両親の死、そして妹の失踪に関係あると思われる人物、
浅河創英を探し出すこと。
そのために、浅河一派からの追っ手がかかる危険性を冒しながらもなんらかの手がかりがあるこの学校に来たのだ。
「協力するよ……何でもね」
学園生活は当然、浅河に関することまで。
賢い彼のことだ、先程の言葉の真意はきっと汲み取っただろう。
もしかしたらまったく不要の気遣いなのかもしれない。それでも、どうしても必要な時にでも頼ってくれればいい。
仁は、徐に懐から一枚のカードを取り出した。
大アルカナの一つ、太陽。
豊作や物質的幸福を意味するこのカードは、予見の魔女から受けとったものだった。
『これは』
『きっと』
『あなたじゃないとできないから』
魔女に言われた香黒のサポートの申し付け。
仁にしかできない、という言葉に、しかし素直には喜べなかった。
まるで、自分が香黒に与えられるのは物質でしかないと言われたようで、苦しかった。もっと彼の内面に入り込んで、そして彼の支えとなりたいのに。
それでも、
「これは、僕にしかできないことだから」
自分に言い聞かせるように呟き、カードを握った。
まるで、一心に何かに祈っているようだった。
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