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長編ホラー
始まりの合図
「マネージャー業が板についてきたな」
「柳君!?急に後ろに立たないでよ。…でもさ一ヶ月近く頑張ってるのに、まだまだ失敗ばっかりなんだ」
「落ち込むことはない。夜風が来てから練習に集中して取り組む時間が増えたからな」
「そう言ってくれると助かるかな」


季節はもう五月の半ばに入っている。
転校してから一ヶ月と少し。夜風は学校にも部活にも随分慣れた。


私はここにいても良いのかな…?必要とされている…?


まだこんなことを考えていることに嫌気がさす。
勝手に求めるのはおかしいことも理解していた。
彼らは夜風を名前で呼ぶ。それは信頼の証だろう。それなのに夜風は苗字で呼んでいた。
それは夜風が引いた境界だ。
本当に信じられるのかとまだ疑っている。


…踏み込まなければ、得られないのに。踏み込むことを恐れてる。
また裏切られたら、立ち直る自信はないから…。


「せんぱ〜い!ドリンクください!!」
「はい、どうぞ」


……見ィーツケタァ……


「ッ!?」


後ろから寒気がする不気味な声が聞こえた。
反射的に後ろを振り向く。


「な、なんだ月村!?」
「……何でもない。それより、はい!」


珍しく驚いた真田に笑顔でドリンクを渡す。
声は夜風にしか聞こえなかったようだ。
今の声は嫌な感じがした。気のせいだと思いたい。


「幸村、夜風を気にかけておいた方が良いかもしれない」
「どうゆうことだい?」
「何かに怯えている。隠しているようだが…」
「確かに少し様子がおかしいね。俺に隠そうなんて無駄な努力なのにね?分かった。気にしておくよ」


……サァ、オイデ?……


少しずつ日が沈み始め、部活が終わりに近づいたことを知らせる。
ジャッカルがいつもならこの時間帯いる夜風を見てないことに気付く。


「なぁ誰か夜風見てないか?」
「そう言われりゃ見てないぜ」
「夜風さんなら、部室の方へ行くのを見かけましたよ」


テニスコートに幸村が部活終了を告げる声が響き渡った。


「ブン太もう部活は終わるよ。夜風呼んできて」
「オッケー」


ブン太は走って部室に向かう。扉は開きっぱなしになっていた。


「夜風〜幸村君が呼んでるぜぃ」
「…………」


座ったままの夜風から反応が返ってこない。
不審に思い、もう一度声をかける。


「…夜風?」
「…ぁ。呼ばれてる……私行かなくちゃ…」
「だから幸村君だろ…?」
「…………」


ブン太と夜風の会話は成り立っていない。目も虚ろで光を宿していない。
明らかに異常だ。
そのまま夜風はゆっくりと立ち上がり不安定な足取りで歩きだす。
向かう先はテニスコートではない。


「大丈夫か…?ちょ、どこ行くんだよ?待てって」

「…行かなくちゃ……行かなくちゃ……」
「先輩!部長が早く来いっていってるんスけど…」
「赤也!いいところに来た。今すぐ他のやつら呼んで来い!俺は夜風を追いかけるから…!」
「夜風先輩…?」
「早く!!」
「っはい!」


様子を見に来た赤也に頼んで、他のメンバーを呼びに行かせた。
ブン太では手に負えない。幸村達ならどうしたらいいか的確な判断をしてくれる。



夜風は導かれるように校舎へと向かう。あたりは不気味に静まり返っていた。
不意に複数の足音が聞こえてきてくる。
他のメンバーが来たことにブン太は少し安堵した。


「ブン太!夜風は?」
「玄関にいる。なんであんなに早いんだ…?」
「お前が追いつけないのはおかしいな」
「今日は施錠されて開かなかったと思うんだけど」


施錠されているはずの玄関はすんなり開き夜風は中へと入っていく。
そこでようやく追いついた。


「夜風!!」
「……あれ?みんなどうしたの?」


夜風の様子は、元に戻っている。本当に不思議そうに幸村を見つめる。


「ブン太?嘘ついたのかな…?
「そ、そんな恐れ多いことするわけないだろぃ?さっきはホントに様子が変だったんだって!」
「その発言が恐れ多いナリ」
「…?なんで私、校舎に…」
「さあ、もう帰るよ」


幸村は夜風の手をひいて玄関から出ようとする。
その瞬間校舎内の温度が下がる。

……ヤット見ツケタ…ヨ…


「「…ッ!?」」


今度は夜風以外の人にも聞こえたようだ。
赤也は青くなって「早く出ましょうよ」と急かす。


バタンッ!!


誰も触っていない扉が勝手に閉じた。
扉に一番近い柳生が慌てて開けようとするが、鍵がかかってないにもかかわらずガチャガチャなるばかりで開かない。


「開きませんよ…!?」


普段冷静な柳生が異常事態に驚きを隠せない。
代わりに力の強いジャッカルや真田が開けようとしても、やっぱりビクともしなかった。


「夜風…?」
「……ぁ…ど、どうしよう…チャイムが…鳴るよ…」


…キーンコーン…カーンコーン…


言葉通り無機質なチャイムの音が、鳴った。
夜風の震えが繋がれた手を伝って幸村に伝わる。


「ま、まだそんな時間じゃないッスよ!?」
「大丈夫だ。俺も幸村もついてる」
「俺らもいるって!だから落ち着けよ。赤也も夜風も」
「違う…違うんだよ。私は…知ってる。この状況を…」


思い出した…。
あの日。私が部活が終わった後、忘れ物があるって言う人がいたから、夕方の校舎にみんなで取りに行った。
そうして閉じ込められて、私は有り得ない体験をしたんだ。
アイツは言っていたじゃないか…少しの間楽しめよと。
もう…その時が来たの……?


あの時の恐怖と絶望が鮮明に蘇る。身体を黒い感情が蝕んでいく。自分では止められない。
襲い来る恐怖に夜風は思わず、幸村の手を振り払った。


……怖い…助け…て…


「ねぇ夜風は何を知ってるの?」
「…アイツが…来る……!!」


幸村の優しい言葉も夜風にはもう届かない。再び来る恐怖に怯え震えることしか出来ない。


「ヤァット会エタ……オイデェ…夜風」
「…ぁあ…い…いや…だぁぁああ!!」


いつの間にか目に前にいた男が、手を伸ばす。
状況を把握できないレギュラー陣と男の間で、夜風の悲痛な叫びだけがこの男の異常さを物語っていた。


やっとホラーっぽくなってきたかな…?
皆の口調が迷子です。
意識していても人が多いとほとんどセリフがない人がいる…。
5/9 更新

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