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長編ホラー
第一の七不思議
「誰かいませんかぁ…?…いたら素直に出てきてくださいよぉ…本返したいだけですからぁ…」


図書館に入ってきたモノは人を探している。
本棚の隙間からそぉっと覗けば、小学生くらいの男の子のようだった。
手に本を持ち、背中に薪を抱えている。
像のように無機質な色合いこそしていないものの、どう考えても二宮金次郎像だろう。


「このままだと……そこの女の人は薪の餌食でしょうね…?」
「…ッ!!」


なんでアイツ私だけ気づいてるの…!?


「ふふふふ動揺してますねぇ。魂が揺れていますよぉ…?」



夜風の喉がごくりと鳴る。
どうやら夜風の魂が見えているらしい。
『死神』も魂を狙っていた。何か他の人とは違うのかもしれない。
どうしよう、と夜風の揺れた瞳が柳生に訴えかける。



「…ここで待っていて下さい。受け付けの仕方は一応知っていますから」
「…でも、比呂士君が危ないよ…」
「女性をわざわざ危険にさらせません。ましてや夜風さんなら」
「…? 私は、大丈夫だよ」
「お願いですからここで、大人しくしていてくださいね…?」


柳生はカウンターで待っている金次郎像のところまで移動した。
パソコンの電源電源は入っていなかったが、本にかざせばピッと鳴って本は無事返却された。


「お待たせしてすみませんでした」



最後は聞こえないくらい小さな声になりながらも、お礼を言う金次郎像。
だんだん半透明になって、最後は消えていった。
その表情はとても満足しているように見えた。


結構あっけなかったんだけど…成仏でもしたんだろうか…?


柳生が夜風の元へと帰ってきた。


「…良かった。怪我もなんともなくて」
「さぁ捜索を再開しましょうか」

*****

各自持ち場につき探すこと数分、幸村から集合の声がかかる。
夜風も収穫物を持って幸村の元へ向かう。


「柳生助かったよ。下手に動いてたら見つかってしまう可能性があったからね」
「いえ、構いません」
「さっそく見つけたものを教えてくれ」


それぞれが見つけたもの机の上に差し出す。
柳が代表して全ての本に目を通した。いくつかの本は役に立たなさそうだ。


「良さそうなのはこの3つだな」


柳が指した3つは『全国学校の七不思議』と書かれた本と真っ黒な本と校内新聞だ。


「やったなジャッカル!俺達の見つけた本だぜぃ」
「取り敢えず安心だぜ。これで真田の鉄拳は避けられるよな…?」
「げっ!俺らヤバいッスか!?」
「こんな状況でそんな理不尽なことはあるのかのう」
「仕方ないな…」


…え!?まさか雅治が止めなかったら、鉄拳の餌食だったのだろうか


「この本俺が見つけたんだけど、何か変なんだ。表紙に何も書いてないし、内容も学校側が許可を出さないと思うしね」
「幸村、代表して俺が読もう」


真っ黒な本を柳が開き、声に出して読み始めた。


『この本を読んでいるということは、裏の世界に迷い込んでしまっているということだ。この世界で常識は通用しない。妖怪や悪霊が存在し、人も簡単に死んでいく。一緒に死ぬ覚悟があるほどの人以外とは行動しない方が良い。裏切られることになる』


「俺らは大丈夫っすよね!絶対に裏切らないッスから」
「確かにその通りだけどね…?皆、最後まで聞いてから発言しようか…?
「……!」
「続きを読むぞ」


黒く威圧的にほほ笑む幸村に赤也をはじめ、何人かは絶句している。


『少しでも生き延びられるように、ここに俺が出会った怪異とその対処法を記しておこうと思う。
口裂け女…ポマードを三回唱える。そうすると動きが止まるからこれで逃げられる。
メリーさん…電話がかかってきたら…背中…』


「読めるのはここまでだ。この先は血で見えなくなっている」
「大事なところが分からないね…あ〜思い出せない!!聞いたことあるのに。背中…背中を…どうするんだっけ!?」
「夜風、お前さんはちょっと落ち着きんしゃい。焦れば出てくるもんも出てこん」
「う〜ん…」
「なぁこっちは?」


夜風が頭を抱えて悩んでいる横で、ブン太が校内新聞を広げる。
それは柳生と夜風が見つけた校内新聞で、立海の七不思議に関することがまとめてあるものだった。
1から順に7まで番号が振られている。
その中の2つだけ消すように線が入っている。


「あっ1は二宮金次郎像だ…」
「ほんとッスね」
「? なんか線が引いてあるんだけど」
「私も気になってた。なんだろう?」
「打ち消し線…。今回のことに全く関係ないということか……それとも……」


考えをぽつりぽつりと漏らしながら、柳が考える。
けれど、正解は誰にも分からない。


「とにかく、その場所を避ければ良いのだろう?それよりこれからどうするかを考えた方が良い」


真田の意見は間違っていない。
ここで考えているだけでは何も始まらないのは事実だ。


「あの、さ。さっきあるはずのない階段があったような気がするんだけど…気のせい?」
「それなら俺も見たよ。みんな見てるんじゃないかな?」
「私…あの階段知っている気がするんだ。だから、ちょっと確かめに行きたい」


じっとしていては始まらない。それならば。
いつもの立海と違うところがあるのなら、調べてみる価値はあるのかもしれなかった。
少しでも、『死神』のことが分かるかもしれない。
夜風の発言を聞いて柳生とジャッカルが必死に止める。


「わざわざ危険に飛び込む必要はねぇだろ?」
「そうですよ。せめて安全を確認してから…」
「私を守ろうとしてくれてるんでしょ?でも、守られるだけは嫌だから。私の知らない所で皆が危険にさらされるのは嫌なんだ」
「夜風…」


足手纏いになるかもしれない。
すでに迷惑はかけている。
それでも。私は、皆より慣れているはずだから。
少しは役に立てるかもしれない。


「無茶するね全く。流石は立海のマネージャーかな」
「だって立海にないものは裏の立海にあるはずないんだよ。きっと『死神』が何かしたんだ」
「その階段が『死神』の手がかりになる確率は68%だな」
「まぁまぁ高いのう」


蓮二はどうやって確立を求めるているのだろう。
テニスに関してならともかく、ここにそんな情報はないよね…?


「じゃ、行きましょうよ夜風先輩。俺が全力で守るんで安心して下さいよ」
「…あ、うん」
「赤也〜?お前口裂け女の対処法ちゃんと覚えてないだろぃ?」
「そんなことないッスよ!バッチリですから!!」


口喧嘩?を始めた二人をよそに、幸村が夜風に耳打ちする。


「大丈夫、安心して。独りじゃないんだから、なんとかなるよ」
「…うん!」


最後に幸村声をかける。それぞれ気を引き締めるために。


「みんな七不思議を覚えたね?後、1人で行動しないこと。必ず3人以上で行動するんだ。じゃあ、行くよ」
「「おう」」


図書館から階段まではそれほど距離はない。
外に何もいないことを十分に確認し、扉を開けた。


心強いですねぇ皆さん。
図書館で分かったことはあんまりないかもですね。
なんてこった!
5/22 更新

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あきゅろす。
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