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長編ホラー
確かな絆
夜風に手を伸ばす男は立海の制服を着ている。
それでも、立海生ではないことも安心できる存在でもないことは容易に理解できた。


「お前誰だよッ!夜風先輩をどうする気だ!!」
「アァ…ソウダ。僕ノ紹介シナクチャネ」


赤也の脅しに応じることなく、楽しそうに男は嗤う。
その嗤いはこの世のこととは思えないくらい冷たい。


「僕ハ『死神』。美味シソウナ魂ヲ喰ラウタメニ彷徨ッテルンダ」
「夜風を呼んだのはお前だろぃ」
「決マッテルジャン。魂ガ美味ソウダカラ目ヲツケテタンダ」
「ッ!」

…やめて。名前を呼ばないでッ…


「夜風」
「………」

『死神』が手を向けると心臓あたりから金色の優しい光が漏れ出す。
それは夜風の魂の色だ。


「……はぁ…はぁ…」
「おい、大丈夫かッ!?」


夜風が心臓を抑え荒い呼吸をし始める。その場に立っていられなくなり倒れそうになるのをジャッカルが支える。
夜風は暗い瞳で、レギュラー陣を見つめた。


「…だから、嫌なんだ…。信じるのは…。優しいふりなんか…しないで」
「何言ってんだ…?」
「お前らも……あいつらと一緒だ!命が危なくなったら……私を犠牲にして、生きようと…するんだ!!」


涙をこらえながら叫ぶ。
彼女の叫びは、今まで心の奥底に閉ざしていた紛れもない本音だった。


「夜風…」
「名前で…呼ばないで…!!……私を惑わさないで…!信じそうになる」
「……少なくとも俺や柳は信じてもいいよってメッセージを込めて名前を呼んでたよ」
「お前さんの闇くらいお見通しぜよ」
「…ッつ!?」


夜風から溢れる光が強くなる。
ガンガンと頭も痛くなってくる。思考回路がまとまらない。


「オ取込ミ中悪イケド、オマエラハイラナイカラ、帰シテヤルヨ」
「…え?ここから出られるんスか……?」
「ダッテ、男ノ魂ハ不味イ」


赤也がすがるように『死神』を見た。
その様子に真田が眉をひそめる。


バシッ!!


真田の鉄拳が赤也を襲った。突然の衝撃に耐えきれず吹っ飛ぶ。


「それが、どういう意味が分かって言っているのか!」
「そいつの提案に乗るということは、俺らは夜風を裏切るということだ」
「本気で思っているのなら、私は君を許せませんよ」
「…あ」


自分がどんな発言をしてしまったのかに気付いて申し訳なさそうに顔を伏せる。


「…それが……本音…でしょ…?早く…帰ってよ…。これ以上…期待させないで…。私のことは、ほっといて…」
「夜風。これ以上否定するのなら許さないよ?


幸村の只ならぬ迫力に皆が驚く。もうほとんど力のはいらない夜風に上を向かせ、瞳を見て今度は優しく尋ねた。


「一度しか言わないよ。俺らにどうして欲しい?」
「…う、裏切ら…ないで…。私がどんなに、役立たずでも……見捨てないで…!」


声を振り絞って答える。とうとう涙が頬を伝って落ちる。一度溢れ出したら止まらない。
そんな夜風を力強く抱きしめた。
幸村の背中越しに見えるレギュラー陣はまかせろとでも言いたげな顔をしている。


「俺達が全国で勝ち続けるためには、君も必要なんだ」
「そうだぜ。俺達の絆は簡単には切れないだろぃ!」
「一緒に帰るぞ」
「…あ、ありがと」


…素直に信じられる。
きっともう私は大丈夫。私はみんながいれば頑張れる。


「ソレデ、良インダナ?…後デ僕ヲ喜バセテクレルノカ?」
「先輩は渡さないッスよ!」
「フン。ドウセ後悔スルコトニナル…」


不吉な言葉を残してスウッっと姿を消した。
それと同時に、夜風の光も収まっていく。
青くなっていた顔色も戻り、力も入るようになっているようだった。
その様子を見て幸村は夜風を離す。


「本当に俺らを信じられるか」
「…うん。迷惑かけてごめんね」
「謝って欲しいわけじゃない。俺らを信じられるなら、俺らを名前で呼んでくれないか。苗字だと今までと変わらないからな」
「良いの…?」


夜風は周りを見渡す。誰も反対はしなかった。
それどころか、何となく嬉しそうにしているメンバーもいる。
恐る恐る柳の名前を呼ぶ。


「じゃあ、蓮二君…?」
「蓮二、だ」
「…蓮二……変な感じする…あっ真田く、じゃなくて弦一郎は私のこと苗字だよね?どうせなら揃えよう」


はぁ流石に緊張する。
ブン太とか赤也は呼びやすくても、弦一郎や精市、精市って呼んで良いんだよね!?は言いずらい。
柳生君は比呂士君でいいかな?だって夜風さんって呼ぶし…。


「む。た「夜風の提案だよ…?聞けないの?」いや、夜風で良いのだな。いつでも呼ぶぞ」
「それに、遠慮することはないよ。精市で構わないから」


また、心を読まれた…!


「これからどうするんじゃ」
「ここにずっといるわけにもいきませんし」


仁王と柳生がもっともな質問をする。
部長の幸村といえど、簡単に案は思いつかない。


「お前さん何か知っているんじゃなか?チャイムのことも分っとったようじゃし」
「あの時の記憶が、蘇ってきたんだけど…。まだ思い出せないこともあって。でも、知ってることは話すよ」


夜風の失った記憶は戻ってきたが、同時に感情も戻ってきて混乱しそうになる。
まだ頭の中が整理できない。記憶がごちゃごちゃしていてパンクしそうだ。


「えっと。ここはきっと立海だけど立海じゃない」
「それってどういうことだ…?」


夜風の言葉を理解できないのはジャッカルだけではない。というか全員だ。


「ここはね人がいられる場所じゃない。ここは妖怪とか幽霊とかの領域、裏の立海なんだ」
「妖怪!?そんなんがいるのかよぃ…」
「うん。ここではまだ見てないけどきっといる。捕まったら殺される…だって」


言いながら思い出したのか、夜風が視線を外す。


「無理に話す必要はない。何となく想像出来る。だが、俺達は必ず全員で帰るんだ」
「随分と脆い絆だ。たるんどる!!」
「なぁ帰る方法は知らんのかのう?」
「…私は『死神』に連れてこられたから。でも、この世界へどうやって来たかによって違うみたいだった」
「たとえば…?」
「合わせ鏡ならその鏡から…とか。私達はきっと『死神』に呼ばれた。だからあいつを何とかしなきゃ帰れない…」

夜風の考えは確信だった。でも、肝心の何とかが分からない。
『死神』にせよこの世界のことのせよ情報が足らなかった。
今はもう少し情報が欲しいところだ。


「ねぇ夜風。七不思議も存在するのかい?」
「多分あるよ。私、立海の七不思議を知らないんだけど誰か知らない…?」


七不思議の内容を知っているのと知らないのでは随分違う。
知っているだけで、少なくとも危険を避けることが出来るだろう。
だが、彼らは七不思議に興味があるわけではない。たまに話題にあがるだけの話を覚えてはいなかった。
それでも、懸命に思い出すように頭を捻る。


「あー。思い出せそうで、思い出せないッス」
「期待させんじゃねぇよ」
「そんなこと言うなら、先輩が思い出してくださいよ」
「ブン太には無理じゃ。休み時間はお菓子のことしか考えとらん」
「そんなことないだろぃ!?」


あの3人が話すとどうにも話題がずれている。まるで漫才のようだ。
緊張感が薄れ、和やかな空気が流れ始めてしまっている。
まだ危険にあったわけでもないのだし、危機感がいまいち湧かないのだろう。
その様子を見て3人の保護者役のようになっている柳がため息をつく。


「ふむ。今のままじゃ何も分からないな」
「それでは、図書館に行ってはどうですか?何か情報があるかもしれませんし」
「それは一理あるね。じゃあ、取り敢えず図書館に行こうか」


一番最初の目的地は図書館に決まった。
彼らは目的地に向かって歩き始める。


ヒロインはレギュラーをようやく信じられたようです
彼らは図書館で何を見つける…?
5/14 更新

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あきゅろす。
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